研究概要 |
1.ラッフル型に変形したポルフィリン鉄(III)錯体にTHFなどの酸素系配位子を結合させることにより純粋な中間スピン(S=3/2)錯体を合成した。^<13>C NMR測定の結果、この錯体が従来とは異なる(d_<xz>,d_<yz>)^3(d_<xy>)^1(d_<z2>)^1の電子配置を持つことを明らかにした。 2.ラッフル型に変形したポルフィリンマンガン(III)錯体にシアン化物イオンを加えると低スピン-ビス(付加体)が生成するが、その電子配置は既に報告されている(d_<xz>,d_<yz>)^2(d_<xy>)^2であった。従って、マンガン(III)錯体では鉄(III)錯体で観測されたd_<xy>軌道とd_<xz>,d_<yz>軌道のエネルギー準位に逆転は起こらないことが明らかになった。 3.軸配位子としてピリジンや置換ピリジンを持つサドル変形したポルフィリン鉄(III)錯体Fe(OMTPP)L_2]^+を合成し、それらの^1H NMR,^<13>C NMR,およびEPRスペクトルをジクロロメタン溶液中で測定した。その結果、軸配位子としてピリジンを持つ錯体は溶液中で温度の低下に伴い中間スピン(S=3/2)から低スピン(S=1/2)ヘスピンクロスオーバーを示すことが明らかになった。また、低温における低スピン錯体の電子配置は(d_<xz>,d_<yz>)^4(d_<xy>)^1であった。次に、この錯体の固体におけ磁気的特性を明らかにするためMossbauerスペクトルや有効磁気モーメントの測定を行った。その結果、溶液中での挙動と異なり結晶中では温度を変化させても低スピン状態を保つことが明らかになった。この結果は溶液中でも固体中でもS=3/2,5/2間のスピンクロスオーバーを示す構造類似の[Fe(OETPP)Py_2]^+と大きく異なっている。この理由を明らかにするため、X線結晶構造解析を298Kと80Kで測定した。スピンクロスオーバーを示す[Fe(OETPP)Py_2]^+が軸配位子の周りに大きな空間を持つのに対して、[Fe(OETPP)Py_2]^+ではピリジン環が狭い空間に閉じこめられており、温度変化に伴う構造変化が最小限に抑えられていることがCavity計算から明らかになった。これらの結果に基づき、固体中でスピンクロスオーバーが起きるためには、結晶格子内の分子が綬く配列しており、軸配位子のまわりに大きな自由空間があることが特に重要であると結論した。
|