研究概要 |
金属イオンとπ共役系配位子より構築される集積型有機金属錯体はCT錯体、電気伝導・光学物性化合物などとして近年興味が持たれている新しい物質群の1つである。 平成14年度は[2.2]パラシクロファン(pcp)を用いて新規な11種のRhおよびIr錯体{[M(pcp)(diene)_2]^+(M=Rh(1),Ir(3);diene=1,5-シシクロオクタジエン,nbd=2,5-ノルボナジエン),[M_2(pcp)(diene)_2]^<2+>(M=Rh(2),Ir(4)),[M(pcp)(Cp^*)]^<2+>(M=Rh(5)and Ir(6))など}を合成し、そのX線構造および性質を明らかにした。Rh(I)錯体1および2のpcpのベンゼン環の面間距離はmetal-freeのそれに比べ近づき、錯体2のpcpのエチレン鎖はmetal-freeと同様クロス型であるのに対し錯体1はパラレル型へと移行することを見出した。同様に同族元素であるIr(1)についても錯体3および4を合成しその結晶構造を明らかにした。さらにCp^*環を支持配位子とするトリプルデッカー構造を有するRh(III)およびIr(III)錯体5および6を合成し、錯体5のベンゼン環の面間距離が錯体1に比べさらに短くなること、錯体6は溶液中ではCp^*環がさらに積層したテトラデッカー錯体[Ir_2(η^6,η^6-pcp)(η^5-Cp^*)_2](BF_4)_4を形成することを見出した。これらpcp錯体の結晶構造からpcpのベンゼン環の面間距離が3.02Å以下になると、pcpのエチレン鎖がクロス型かちパラレル型へと移行することを見出した。 平成15年度はm-およびp-ターフェニル(tp)を用い、新規な2種のIr錯体を合成し、そのX線構造を明らかにした。[Ir(cod)_2]BF_4とp-tpとの反応は二核Ir(I)錯体{[Ir_2(p-tp)(cod)_2〕(BF_4)_2・2CH_2Cl_2}_3(cod=1,5-シシクロオクタジエン)(7・2CH_2Cl_2)を与え、[Ir(η^5-C_5Me_5)(Me_2CO)_3]^<3+>とm-tpとの反応では単核Ir(III)錯体[Ir(m-tp)(η^5-C_5Me_5)](BF_4)_2(8)を与えることを見出した。錯体7・2CH_2Cl_2は2つのIr原子がη^6-形式でp-tp配位子の両端のベンゼン環の上下に、錯体8はCp^*基に支持された1つのIr原子がm-tp配位子の端のベンゼン環にη^6-形式で配位した始めてのm-およびp-tpの金属錯体である。 これらの研究成果は今後、集積型有機金属錯体を構築する上で基礎的知見と成りうることが期待される。
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