研究概要 |
タケ類における一斉開花・枯死は数十年に1度の稀な現象として古くより知られているが,その遺伝的メカニズムは全く解明されていない。本研究では,1997年3月に伊豆諸島・御蔵島で起こったミクラザサ個体群の一斉開花・枯死,個体群の回復過程について,御山における実生個体群,未開花株および再生稈,長滝山の未開花と推定される個体群,そして,八丈島・三原山の3ヶ所に散在する未開花個体群におけるマイクロサテライト遺伝子領域の多型性を比較検討した。これらの個体群から得られた全DNAを鋳型として,イネのマイクロサテライト・マーカーとして開発されたプライマー対を使用して検索した結果,全個体群に共通な1、2本のバンドとともに特定の個体のみに固有なバンドを与える遺伝子座として、第8,9,11および第3染色体の長腕に座乗するRM230、RM205、RM254およびRM60を選定した。これらの遺伝子座における多型なバンドをそれぞれ、A、B、CおよびD対立遺伝子とし、個体群相互の関連性を比較した。以下に結果を要約する。 まず第1の特徴は、これらの対立遺伝子群は御蔵島の個体群のみに検出され、しかも、八丈島の3個体群間には全く遺伝的変異が見られず、単一の個体群とみなされた点である。第2に、御蔵島の個体群間では、御山の南東約1kmに位置する長滝山の個体群の4試料中3試料がいずれの対立遺伝子も持たず、むしろ八丈島の個体群に類似していた。第3に、A、B、Cの3対立遺伝子を保有するのは再生稈とそれらに隣接した近傍実生に限られ、各遺伝子頻度も近似するのに対して、再生稈に最も遠い位置に生じた実生の間にはAは見られなかった。第5に、未開花株を構成する稈はAのみを持つか、全く持たないかのいずれかに別れ、数本の稈からなる単一の未開花株と思われたものが、実際には異なるジェネット起源の二つ以上のクローンの集合であることを示した。 以上の結果は、一斉開花・枯死がA、B、Cなどの対立遺伝子の組み合わせによって支配されること、開花現象とは独立に枯死現象が存在し、Aのように枯死の漏出に関わるleaky遺伝子が存在することを示唆した。
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