研究概要 |
カフェインはキサンチン骨格の1,3,7位がメチル化されているトリメチルキサンチンであり、テオブロミン(3,7-ジメチルキサンチン)を経て合成される。チャのカフェインシンターゼcDNAを用いてプリンアルカロイドを蓄積する植物から相同遺伝子の単離を行った。その結果、今まではキサンチン骨格のN-3位を特異的にメチル化するテオブロミンシンターゼしか単離されていなかったコーヒー(Coffea arabica)から、N-1位とN-3位の両方をメチル化するカフェインシンターゼおよびN-1位のメチル化を行う7-メチルキサントシンシンターゼの遺伝子を単離することに成功し、コーヒーにおいては3段階のすべてのメチル化の過程を明らかにした。さらにカフェインではなくテオブロミンを蓄積するカカオからもテオブロミンシンターゼ遺伝子BTS1を単離した。カカオにはカフェインシンターゼの存在は認められず、植物中のプリンアルカロイドの蓄積パターンは存在する酵素の基質特異性によって決定されることを示唆した。テオブロミンシンターゼも、カフェインシンターゼと同様に特定のオルガネラへの移行配列を持たず、細胞質基質に存在する可能性が高いと推定される。 カフェインシンターゼとテオブロミンシンターゼは、基質特異性が異なるが、同種の植物由来であればそのアミノ酸配列の相同性はきわめて高いことがわかった。そこで、基質特異性の相違を決定する領域を解析した。その結果、S-アデノシルメチオニンの結合領域を含まない酵素の中央部分が、基質特異性に関与することが示された。さらにその領域に含まれるヒスチジン残基とアルギニン残基の相違によって、基質特異性が変化することが示された。しかしながら、1つのアミノ酸の置換だけでは、基質特異性が完全に変化することはなかったので、基質特異性の決定には酵素の中央部分の複数のアミノ酸が関与すると考えられる。
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