研究概要 |
コオロギ側輸卵管に酵素処理を施すと長径100ミクロン、短径5ミクロンの横紋構造を持つ単一筋細胞が得られる。この単一筋細胞は、正常リンガー液中で周期的なリズム収縮を示す。この単一筋細胞にホールセルパッチクランプ法を適用すると周期的収縮に同期した一過性の過分極電位(過分極性膜電位振動)が発生していることを見出した。本研究ではこの機構の解明を目的とした。その結果、過分極性膜電位振動の発現に細胞外からのCa流入が必須であること、電気生理学的及び薬理学的方法により、その経路には以下の性質を示す2種のCa透過型チャネルが関与していることを明らかにした。 電位依存性L型Caチャネル:単一チャネルの記録・解析によりコンダクタンス18pSの単一Caチャネル電流が同定された。薬理学的解析によりこのチャネルはdihydropyridine感受性であることが明らかにされた。さらに単一チャネルの平均加算電流は巨視的電流と類似の時間依存性電流を再現した。 伸展活性化チャネル:コンダクタンス20pSの伸展活性化チャネルを同定した。このチャネルは一価及び二価のカチオンを通す非選択的陽イオンチャネルであった。細胞外のGd、La, Cd, Znは単一チャネル電流の振幅を減少させた。 次に膜の過分極を担うイオンチャネルは細胞内Caの増加により活性化されるCa活性化カリウムチャネルであるとの仮説に基ずき、チャネルの同定を進めた。その結果、以下の性質を示す2種のCa活性化カリウムチャネルの存在を明らかにした。 BKチャネル:コンダクタンスは外液カリウムイオン濃度140mMの場合、120pS、10mMの場合、51pSであった。チャネルの平衡電位は外液カリウムイオン濃度の変化によりネルンスト式に従い変化した。細胞内のCa濃度上昇により開確率が増加した。細胞外からのイベリオトキシン、TEA、Baによりチャネル活性は抑制された。 Ikチャネル:コンダクタンスは外液カリウムイオン濃度140mMの場合、50pSであった。チャネルの平衡電位は外液カリウムイオン濃度の変化によりネルンスト式に従い変化した。細胞外からのクロトリマゾール、シャリブドトキシン、TEA、Baは効果なかったが細胞内からのTEAに作用によりチャネル活性は抑制された。 以上の結果から、膜の過分極を発生させるイオンチャネルはBKチャネルとIKチャネルであることを示すことができた。さらにカフェインやリアノジンなどのCaモビライザーの作用から、これらのチャネルを活性化させるCaイオンは細胞外由来のものだけでなく、Ca誘発性Ca遊離機構を介した細胞内Ca貯蔵部位からの遊離Caも関与していることを明らかにした。
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