研究概要 |
湿潤熱帯地域は地球上でもっとも陸上植物の多様性が高い地域であり,大型の有用樹種を除くと分類学的な研究は遅れている。特にバショウ科,サトイモ科,ショウガ科などの大型草本類は標本作製も難しく,その多様性および有用性にも関わらず十分な研究が行われていない。そこで本研究ではボルネオの低地熱帯多雨林のショウガ科を研究対象とした。 これまでにボルネオ島より収集し,京都大学に保管している標本を整理・解析したのち,ヨーロッパの植物標本館に保存されている東南アジア産ショウガ科の植物標本について,連合王国,デンマーク,オランダ,オーストリアで調査した。新たな標本資料を研究期間中に採集することはほとんどできなかったが,ボルネオ島の生物多様性研究の拠点の一つであるサラワク森林研究所(マレーシア)に保存されている標本調査もあわせて行った。 その結果,ボルネオに産する3亜科について,サラワク州ランビル国立公園を中心にした地域に,すでに発表したAmomum属12種を除いてAlpinioideae亜科では6属23種を認め,うち4種を新種として記載発表した。Etlingera属の1種にはショウガ科では報告の少ない花の2型性が見いだされた。Zingiberoideae亜科では3属12種を認め,うち4種1変種が新分類群である。それぞれの種について送粉者の情報も加えた。Boesenbergia属では花序の形態について詳細な解析を行い,菊の裂開様式との関係について議論した。また,ショウガ科の系統においてきわめて古く分岐したと考えられ,ボルネオ島の限られた地域にのみ分布するTamijioideae亜科(Tamijia属1種のみ)の新産地も標本調査の過程で明らかになった。それぞれの属についてボルネオ産全種の検索表も作成し,ボルネオにおけるショウガ科の全体像を明らかにした。
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