研究概要 |
旧世界ザルの大臼歯形態を記載した研究は多数報告されているが,肉眼的な形質の出現頻度や歯冠最大径の記載が中心で,歯冠内の形態を数量的に扱ったものはほとんどみられない。本研究ではニホンザル臼歯間における咬合面形態の違いを記載することを目的とした。咬合面の二次元的,三次元的形態を分析した。材料は京都大学霊長類研究所に保管されているニホンザル(オス)頭蓋骨の上・下顎第1〜3大臼歯,および上顎第4乳臼歯である。ランドマークは中心窩,咬頭頂,頬・舌側溝と咬合縁の交点,近・遠心小窩,近心および遠心頬・舌側の最大豊隆点,頬・舌側溝の歯冠外形への延長点を使用した。大臼歯の二次元解析ではプロクルステス法により各大臼歯の大きさ要素を除外した各ランドマークの平均座標値を算出した後,薄板スプライン法により第1大臼歯と遠心位の大臼歯の形を比較した。その結果,歯冠内部(咬頭頂と窩・溝)は歯冠外形(最大豊隆点など)に比べて大臼歯間の差異が小さかった。曲げモーメントは,後者は前者の3〜10倍であった。すなわち,発生の早い歯冠内部のランドマークは大臼歯間の差異が小さく,発生の遅い歯冠外形のランドマークでは大臼歯間の差異が大きいといえよう。三次元解析では上顎第4乳臼歯,第1大臼歯の違いを薄板スプライン解析により分析した。その結果,両者の違いは咬合面内の凹凸が小さいことであり,水平面における咬頭頂の位置関係は両者で類似していることが明らかとなった。以上から咬合面形態の類似度の高い臼歯の比較には三次元的な解析が有効なことが分かった。
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