研究概要 |
近年、電子のもつ電荷とスピンを制御し,新しいエレクトロニクスの創製を目指すスピントロニクス材料として、希薄磁性半導体(Ga,Mn)Asが注目されている。この(Ga,Mn)AsをSi基板上に成長し高い強磁性転移温度を持つことが確認できれば、Siデバイス応用として魅力的である。そこで、本研究では、(Ga,Mn)AsをSi基板上へ成長させることを試み、磁気輸送特性を調べた。試料は、Si(001)基板上に多段階成長法でGaAsバッファー層を成長させた後、約200℃の低温MBE法によって(Ga,Mn)As層を成長させた。成長中の膜表面は、RHEEDにより観察しストリークパターンが得られたことから、2次元成長が確認された。作成した試料の強磁性転移温度Tcは、as-grownでおよそ80Kであった。また、低温熱処理効果によるTcの上昇に関しては、Si基板をエッチング除去した試料で152Kという値が得られた。これらのTcは、GaAs基板上の(GaMn)As比べ高いが、これは、格子不整合からくる貫通転位が格子間Mnをトラップし、Mn-Asの複合体を解消する結果、正孔濃度が増加して強磁性が強くなったためだと考えられる。さらに、磁気抵抗測定により磁気異方性を調べた結果、Si(001)基板上の(Ga,Mn)Asでは、面内方向に磁化容易軸が存在し、Si基板を除去することにより面内での異方性が弱くなることが分かった。すなわち、(Ga,Mn)As薄膜がGaAsバッファー層上に成長されていてもSi基板による圧縮応力が磁区構造に影響を与えることが分かった。また、低温熱処理により、約2倍の保磁力の増加が確認された(=減磁し難くなった)。これらの結果より、Si基板上の(Ga,Mn)As薄膜は、GaAs基板上の(Ga,Mn)As薄膜とは異なる磁区構造を有することが明らかとなった。
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