研究概要 |
関節軟骨は間質液とプロテオグリカン凝集体やコーラゲン繊維で構成され,さらに強い陰性荷電を持つグリコサミノグリカンがプロテオグリカンに含まれている.陰性荷電に起因する浸透圧がスウェリング効果を生じ関節軟骨の粘弾性挙動に影響を与える一方,関節面の接触負荷による軟骨の変形は陰性荷電密度を変化させ,軟骨内における電気化学的平衡の変化をもたらす.本研究はこのような力学・電気化学連成現象を考慮した非線形有限要素解析手法を開発することを目的とした.まず平成14年度では,大変形問題に拡張した関節軟骨における力学・電気化学連成現象を記述する3相理論に基づく大変形有限要素解析プログラムのプロトタイプを作成した.平成15年度の研究ではさらに関節軟骨内陰性荷電密度の分布及び透過係数の変形依存性による非線形性を取り入れ,完成度の高い3相理論非線形有限要素プログラムを開発した.数値解析の結果,軟骨のような3相構造においては内部流れに対する抵抗が粘性を生じる支配的要因であり,圧縮変形における内部流体の流出は陰性荷電密度を上昇させ,軟骨の剛性と共に対イオン濃度及び電気ポテンシャルを高めることを示した.また軟骨における自由膨張のシミュレーションを行い,実験結果との良い一致が得られた.一方,有限要素解析における接触表面の離散化による解析の不安定性を解消するため,Gregory patchによる平滑化手法を導入した大変形に伴う有限滑り接触問題有限要素解析手法を開発した.これにより効率的に関節軟骨間の摩擦接触問題解析を行うことが可能となった.これらの成果を各モジュールとして単に結合すば、力学・電気化学連成現象を含んだ間接の接触解析が容易に行えることとなる。なお、実際の生体関節軟骨における3相理論の諸定数は未だ実験的に明らかにされていないため、本研究報告における具体的な応用例としての仙骨-骨盤-大腿骨解析については、不確定性を排除するためにあえて定数力が既知である超弾性体を仮定し、臨床上意味のある定量的な検討を加えた。
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