研究概要 |
近年,機器・装置の高機能化,高寿命化,高負荷化への要求が高まるに伴いドライプロセスによる材料表蔓改質の重要性が著しく増大し,各種保護コーティング膜への応用が検討されてきた.この内,TiNは耐摩耗コーティング膜として最も広く用いられているが,さらなるニーズに応えるために高硬質などの特性に加え,熱伝導性,高温安定性などの特性を付与する必要がある.三元系窒化物の(Ti,Al)NはTiNに置き換わる耐摩耗性硬質薄膜として注目され,これまでにイオンプレーティング,スパッタリングやイオンビームミキシングなどを利用して作製されてきた.この種の薄膜は,NaCl型構造でAl最大固溶状態にある膜が最も優れた硬度と耐酸化性を与える可能性があるため,その最適成膜条件を調べることがとりわけ重要である. 本研究では,イオンミキシング蒸着法により(Ti,Al)N薄膜を作製し,その最適成膜条件を調べるとともに特性評価を行った結果,以下のような結論が得られた. 1)作製した(Ti,Al)N薄膜は極めて平坦であり,蒸発比および輸送比を増加させると断蔓は柱状組織から微細組織へと変化する. 2)薄膜の結晶構造は,蒸発比および輸送比を増加させるとNaCl型構造からウルツ鉱型構造へと変化し,2相構造を示す遷移領域が存在する. 3)Ti-2p3/2およびAl-2pの束縛エネルギに化学シフトが認められ,輸送比を増加させるとTiに比べてAlの窒化が優先する. 4)薄膜のヌープ硬度は,2相構造を示す遷移領域において高い値を示す. 5)ピンホール欠陥蔓積率に及ぼす輸送比および蒸発比の影響は比較的少ない. 6)Alが選択的に酸化されて保護性のあるAl_2O_3を形成するため(Ti,Al)N薄膜は優れた耐酸化性を示す.
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