研究概要 |
市販の温度センサの応答速度は低く,遮断周波数は通常10Hz以下である。このような低速のセンサでも,時定数を正確に知って適切に応答補償すれば応答速度を10〜100倍に高めることができる。しかし,温度センサの応答特性はセンサ周囲の流体の種類や流速によって大きく変化するため,センサが使用される環境を網羅するように動特性を校正することは現実には不可能に近い。最近,本研究代表者らはこの問題を解決する一般的なアプローチを提案し,二線式熱電対法と命名した。二線式熱電対法とは,時定数(応答速度)が異なる2つの温度センサを組み合わせて単一プローブとすることにより,2つのセンサ出力からそれぞれの時定数を推定し応答補償する新しいディジタル信号処理技術である。本研究の目的は,この技術をさらに発展させて,応答特性を測定中に自己診断するインテリジェントな温度センサを実現することにある。それには,時定数推定の理論的基盤を強化するとともに,応答補償アルゴリズムの汎用性を高めて実用化への課題を明確にすることが肝要である。 本研究の成果は次の通りである。1)温度センサとして広く利用されているサーミスタの伝熱モデルを構成して,サーミスタの周波数応答特性を理論的に解明した。これにより,サーミスタを用いてインテリジェント温度センサを実現する条件を明確にするとともに,提案する応答補償法の有効性を実証した。2)高速フーリエ変換を利用して周波数領域で時定数を推定し,応答補償する新しい方法を考案した。この方法では,計測ノイズ処理が非常に容易であり,温度センサに限らず種々の応答特性をもつ物理・化学センサに広く適用できる点に特長がある。以上の研究成果により,インテリジェント温度センサを実現するための基盤はほぼ確立されたといえる。実用計測システムの設計・製作および実地試験による検証が次の課題である。
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