研究概要 |
工学における重要な自己組織化現象の1つに相転移問題がある.本研究では相転移における自己組織化制御とナノテクノロジーへの応用に関して以下の点を明確にした. (1)相転移の定性的解析: 相境界の挙動は一般に外部からの影響を受ける.しかし,金属材料の焼き鈍しにおける粒界の挙動のように,その挙動が外部の影響を受けず,相境界の曲率のみに依存する場合がある.そのような場合を考察対象に材料内の不純物や熱雑音等の不規則な外乱の影響を確率過程としてモデル化し,材料内の粒界挙動の確率モデルを構築した.次に,確立した相境界挙動モデルに対して等高面法を用いて定式化した.その際には確率粘性解という弱解の概念を導入した.さらに,相境界挙動が外界の影響を受ける自由境界問題については確率相場モデルを新たに提案し,解析を行った.これにより,モデルに過冷却・過加熱・表面張力といった実際的な現象をモデルに反映することが可能となった. (2)相転移の定量的解析: 有限差分法を用いて主要設備のシミュレータにより相境界挙動の定量的解析を行い,外乱が相境界挙動にどのような影響を与えるのかを明確にした.その結果,外乱は相境界が外界の影響を受けない平均曲率流に対しては相境界の移動速度を減少させることや外乱に依存して粒界の分離・融合が生じる場合があることが分かった.このように外乱は相境界挙動に大きな影響を及ぼすことが判明した.また,外界の影響を受ける相境界挙動においては温度に揺らぎが生じるが相境界の運動には大きな影響を及ぼさないことが分かった. (3)自己組織化過程の可視化システム: 自己組織化過程を高精度,高速度で可視化するプログラムを開発した. 本研究で得られたシミュレーション解析結果は金属材料のナノサイズでの材質制御の基礎研究として有用であると思われる.
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