研究概要 |
本研究の目的は,短波長高出力発光デバイスの代表格である窒化ガリウム系高出力青色レーザに対し,その出力端面の信頼性評価への顕微ラマン分光法の適用可能性を探ると共に,光通信の波長帯である1.5ミクロン帯で発光する可能性が指摘され,将来の光エレクトロニクス材料として有望視されている材料の一つであるベータ鉄シリサイドの基礎的評価を行う点にある. 本研究において,動作状態の窒化ガリウム系高出力青色レーザの顕微ラマン分光測定を行った.レーザダイオードからのレーザ光はフィルタにより充分遮断することが出来,測定に影響を与えるにとがないことが確認できた.しかし発振閾値よりもはるかに小さい電流値においてもラマン光の波長付近にブロードな非常に強いエレクトロルミネッセンスが発生するため,微弱なラマン散乱光が埋もれてしまうことが明らかとなった.赤色レーザダイオードの端面温度評価に有効である本方法は,窒化ガリウム系レーザに特有のこの問題のために,窒化ガリウム系レーザに適用することは困難であるとの結論を得た.しかしながら理論的検討において,高出力発光デバイス端面の冷却には従来用いられている結晶を介しての熱の除去では対応できないとの知見を得た.パッケージ内に封入する気体として熱伝導度の大きいヘリウムを用いること,デバイスの使用目的によっては液体を用いることにより,効果的に端面から熱を除去できるとの結論を得た.一方,光デバイス用材料として期待されているベータ鉄シリサイドの基礎的評価は,以下の進展があった.パルスレーザ堆積法によるFe-Siドロップレットは350℃以下の熱処理でベータ鉄シリサイドに相変化することが顕微ラマン分光により明らかとなった.また,熱処理前後のFe-Siドロップレットに対し,顕微ラマン分光分析と断面透過電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果,TEMの格子像及び回折像から,熱処理前のβ-FeSi_2のラマン信号が観測されないドロップレットはアモルファスであり,熱処理後のβ-FeSi_2のラマン信号が観測されるドロップレットは多結晶であることが明らかとなった.この結果によって,これまで提案してきた「Fe-Si混合液滴の急冷により形成されたFe-Siアモルファスが,低温の熱処理によりβ-FeSi_2相に相変化する.」というモデルが正しいことが確認された.
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