研究概要 |
次世代超高速差動ディジタル信号インターフェース用コモンモードフィルタの開発を目的に,Mn-Znフェライト粒子/ポリイミド複合材料の作製と特性評価,コモンモードフィルタ作製プロセスの検討,ならびにデバイス試作とGHz帯信号伝送特性を評価した。 (1)Mn-Znフェライト/ポリイミド複合材料の作製方法の検討 コモンモードフィルタ用電磁気材料として,Mn-Znフェライト粒子/有機ポリイミド複合材料を開発した。ポリイミドは400℃に達する耐熱性を有するため,280℃ハンダリフロープロセスにも十分に対応可能である。フェライト粒子とポリイミドワニスからなる原料スラリをスピンコートして焼成する方法,ならびに,作製コストの低いスクリーン印刷法の2つの方法について種々の検討を行った。いずれの方法においても300℃の低温焼成で複合材料を作成できるが,安定して厚膜を形成できるフェライト粒子の体積比率は50%前後が限界であった。作製された複合材料は5〜6程度の静的比透磁率を有し,高周波用Ni-Znフェライトのスヌークの限界線に対応した高周波特性を示す。また,比誘電率は数百MHz帯で50〜100前後の高い比誘電率を示し,Ni-Znフェライトのそれよりも5から10倍程度高い。 (2)コモンモードフィルタ作製プロセスの検討とデバイス試作 スピンコート法ならびにスクリーン印刷法によるデバイス作製プロセスを検討した。前者の方法では,複雑なデバイス構造を実現するのが困難であるため,2本の信号導体が同一平面に配置した結合線路造デバイスを作製した。後者の方法によれば,複雑な積層構造も容易に実現でき,高い磁気結合が期待できる上下対向型結合線路構造デバイスを作製した。スクリーン印刷法におけるデバイス作製時のクラックを抑制する手段として,粒径5μm程度のSiO_2フィラーをポリイミド中に分散させた複合誘電体材料を採用した。ガラスフィラーとポリイミドの体積比率をフェライト複合材料と同じ1:1に設定することで,複台誘電体材料と複合磁性材料の熱収縮を同程度にでき,クラックをほぼ完全に抑制できることを明らかにした。 (3)試作コモンモードフィルタの信号伝送特性 試作コモンモードフィルタを4ポートネットワークアナライザによって信号伝送特性を評価した。その結果、GHz帯コモンモード信号に対して15dB以上のコモンモード減衰量と3GHzで50dBの最大減衰量が得られた。GHz帯バランスモード信号に対する減衰量は15dB以下であり、試作デバイスがGHz帯コモンモードフィルタとして十分な性能を有することが明らかとなった。 (4)今後の課題 試作コモンモードフィルタはGHz帯の広い周波数帯において大きなコモンモード減衰量を有するが、バランスモード信号に対する挿入損失が大きい。Gbps差動ディジタル信号インターフェースに適用するには、バランスモード挿入損失を3dB以下に低減する必要があり、磁性複合材料の高透磁率化による磁気結合の向上が今後の課題である。現在、フェライト複合材料の代替として金属磁性複合材料の開発を別途進めており、従来に比べて2倍以上の透磁率が得られる見通しを得ている。本研究期間終了後も、金属磁性複合材料を用いた広帯域コモンモードフィルタの開発を引き続き実施していく予定である。
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