研究概要 |
量子暗号鍵配送において量子通信路で発生した誤りを訂正する秘密鍵系列の一致は,公衆通信路を用いて行われるため,この過程での送受信者の通信の内容は原理的にはすべて盗聴者に聞かれる恐れがある.ここで,盗聴者が量子メモリを用いることにより,秘密鍵系列の一致の情報を得た後に量子通信路から得た信号を測定する場合には,その情報を用いて量子一括測定を行うことにより,量子信号単独で受信する場合より多くの情報を得る可能性がある.本年度は,これまでに提案している秘密鍵系列の一致のための完全符号とハミング符号を用いた場合で,秘匿性の一致の情報を利用した量子信号の一括測定の効果を調べた.数値解析の結果,両符号に於いて秘密鍵系列の一致の情報を用いた一括測定を行うことで盗聴者はより多くの情報を得ることを示した.また,その効果は提案符号の方が大きいことを示した.この理由については現在検討中であり,来年度の研究で明らかにする予定である. これまでレーザのショット雑音を用いた暗号鍵配送(Yuen-Kim方式)の高速化を試みてきたが,本年度は,受信者の誤り率を一定の誤り率以下に制限したときの暗号鍵の生成速度について調査した.これは,送受信者間の距離が広がるにつれ提案方式における受信者の最適誤り率(鍵生成速度を最大にする)が0.2あるいはそれ以上になるが,この誤り率が大きくなるにつれ,現実の誤り訂正符号の性能が理論限界から離れる傾向にあることを考慮したものである.調査の結果,Yuen-Kim方式では受信者は二重閾値を用いることにより盗聴者に対する優位性を高めているが,受信者の誤り率を制限しない場合には,単一の閾値でも鍵の生成が可能であるが,誤り率を制限した場合には単一閾値では伝送距離に制限が加わり,長距離化には二重閾値の使用が本質的であることを示した.
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