研究概要 |
本研究では,福井地域において,2年余りの運行休止を経て「えちぜん鉄道」として新しい形態で運行再開された地方鉄道に焦点を当て,鉄道の運行休止・再開が地域にもたらした影響・効果の把握,休止から再開に至るまでの地域における議論の展開の精査等を通して,今後の地方鉄道のあり方の検討に資する知見を得ることを目的とした.具体的な研究内容及び得られた主要な成果は,下記のとおりである. 1.利用者および沿線住民アンケート調査結果より,「京福運行時-電車運行休止・代行バス運行時-えち鉄としての運行再開後(現在)」といった3つの状況下における人々の交通行動・生活活動,意識面の変化について分析した.その結果,地方鉄道の運行休止・再開が人々の交通手段選択だけでなく,それを通して生活活動面にも多大な影響を及ぼしたこと,利用者のみならず非利用者に対しても送迎機会の増減や心理面的負荷の増減といった面で影響を及ぼしたこと等が実証された. 2.3つの状況下における鉄道・代行バス利用の有無から,沿線住民を5つの層(電車バス継続利用層・電車再利用層・電車新規利用層・電車離れ層・非利用層)に分類し,各層の属性,生活行動実態と影響感,鉄道に対する利用意向や意識について比較分析した.その結果,今後の利用意向やニーズを含めて種々の面において各層間で差異が見られること,非利用者層においても鉄道に対する関心の変化,必要性認識の高まりが見られること,従って各層をマーケットセグメントとみなしたきめ細かな対応が効果的な利用促進に結びつきうること等を明らかにした. 3.存廃問題の議論を経て運行再開された経緯と背景を詳細に探るために,関連する地元新聞記事を抽出・データベース化して分析を行った.その結果,時間経過の中での地域住民の鉄道に対する関心の広がりと議論の深まりが,行政を含む様々な関連主体間の調整を促し鉄道再開を導いたこと,その背景には突然の運行休止が人々に鉄道の存在意義を様々な点で実感させたこと,市民グループの活動が大きく貢献したこと等があることを明らかにした. 4.最後に以上の結果を総括し,地域における社会的資本として鉄道を位置づけ,維持存続させるために公的財源を投入することの妥当性についての考え方を仮説として提示した.
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