研究概要 |
部材の塑性変形性能をばらつかせる要因には,素材特性や幾何学的な初期変形の不確定性に加え,溶接熱影響部の機械的性質や溶接欠陥の有無にかかわる不確定性がある.このうち,溶接欠陥のように人為的な不確定性が関わる要因は,本来は十分な施工管理の中で解決されるべき要因であるが,構造物が人の手を経る工業生産品である以上,あるレベルの管理下でも避けられない範囲の人為的不確定性についてはそれらの影響を定量的に把握しておくことが不可欠といえる. こうした観点から,本研究は部材の塑性変形性能のばらつきが建築構造システムの耐震信頼性に与える影響について考察を行ったものである.本研究は,大別して次の2つの内容からなる. [1]脆性破壊のランダムな発生が建築構造システムの最大応答変位に与える影響 [2]部材の塑性変形性能の不確定性を考慮したラーメン骨組の吸収エネルギー量の統計的評価 まず,[1]では,脆性的な破壊の発生事象自体をランダムな現象として扱い,構造システムの中における発生場所にも不確定性を有する構造モデルの動的荷重下における耐震信頼性について検討した.また,[2]では,部材の弾塑性挙動において,降伏後の塑性変形量をランダムな量として扱い,ラーメン骨組が限界状態に至るまでに吸収するエネルギー量を部材の変形性能との関係で統計的に整理した.また,骨組の吸収エネルギー量の統計的下限値を評価するために有効な部材変形性能の指標を提案し,それを用いた簡便な評価式を提示している. いずれの検討においても,構造物の力学的なモデルとしては理想化された極めてシンプルなものが用いられており,実構造物の挙動との整合を考えた上での統計論的な評価は今後の大きな研究課題の一つであるが,変形性能や倒壊限界といった安全性の定量的評価の中では特に重要な現象について,要素の統計的な特性とシステム信頼性の基本的な関係を提示できたことは有益な成果である.
|