研究概要 |
本研究では,側方押し出し加工(ECAE)によって得られた,サブミクロンサイズの結晶粒径を持つAl-Mg-Sc合金超微細結晶粒材料を用いて,焼鈍に伴う組織変化と機械的特性特として引張特性・低サイクル疲労特性を調査し,以下のような結果を得た. (1)Al-Mg合金に少量のSc添加によって,超微細結晶粒組織の熱的安定性は著しく改善し,再結晶温度が300℃より高くなる. (2)300℃で焼鈍を行ったとき組織と硬さの変化は次の通りである. 焼鈍初期:結晶粒成長と結晶粒内の転位密度の減少により硬さは低下する. 焼鈍中期:結晶粒内への微細なAl_3Sc相の析出により硬さは上昇する.結晶粒界は粒界上の微細なAl_3Sc析出相によってピン止めされるため,結晶粒の成長は強く抑制される. 焼鈍後期:Al_3Sc析出相の粗大化成長と結晶粒の成長により硬さは低下する.結晶粒サイズとAl_3Sc析出物のサイズの間には線型関係が成り立ち,結晶粒の成長はAl_3Sc粒子径により支配される (3)焼鈍に伴う微視組織観察と集合組織観察結果より,結晶粒の成長に関わらず方位は変化しない連続再結晶によって微細結晶粒の成長が起こることをあきらかにした. (4)(1)〜(3)の組織観察結果より得られた知見を基に超微細結晶粒材料に焼鈍を施し,硬さが最高となる熱処理を施した試料の機械的性質の調査を行った.ECAE加工後の試料では降伏応力は熱処理を施した試料と比較して高い降伏・応力を示すが,均一伸びはほとんど示さず降伏後直ちにネッキングを起こし破断する.一方,熱処理後の試料においては若干降伏応力は小さくなるが,均一伸び・破断伸びは大幅に改善する.微視組織観察より,ECAE加工後の試料は強化工により導入された高密度の転位により強度は非常に高くなるが,塑性変形により容易に動的回復・再結晶によって,機械的性質は低下するのに対して,熱処理後の試料は結晶粒内に微細に析出したAl_3Sc析出粒子によって,転位の挙動・再配列は阻害され変形が均一となったために大きな伸びの改善が得られたと言える. (5)熱処理による超微細結晶粒材料の引張特性の改善から低サイクル疲労寿命の改善が期待されたが,熱処理を施した試料の疲労寿命はECAE加工のままの試料よりも低下した.これは熱処理試料中の整合Al_3Sc析出粒子が繰り返し変形中に転位によるせん断を受け,析出硬化への寄与が失われたためであると考えられる.
|