研究課題/領域番号 |
14550655
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
金属物性
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
蔵元 英一 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (30013519)
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研究分担者 |
大沢 一人 九州大学, 応用力学研究所, 助手 (90253541)
安倍 博信 (安部 博信) 九州大学, 応用力学研究所, 助手 (90038555)
佃 昇 九州大学, 応用力学研究所, 助教授 (90038563)
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研究期間 (年度) |
2002 – 2003
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研究課題ステータス |
完了 (2003年度)
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配分額 *注記 |
3,600千円 (直接経費: 3,600千円)
2003年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2002年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
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キーワード | 原子炉圧力容器 / 照射脆化 / 鉄中の銅析出 / 陽電子消滅測定 / 同時計測ドップラー測定 / 電気抵抗測定 / 格子間原子による銅移動 / 鉄中の銅析出過程 / 軽水炉圧力容器の脆化 / 照射欠陥 / 塑性変形 |
研究概要 |
近年、原子炉の圧力容器の照射脆化がその使用寿命を決定する重要な要因であり、その原因が微量に存在する銅などの元素に強く依存していることが次第に明らかになってきた。マクロな脆化という問題が微視的、原子レベルの挙動により支配されているという点で、一つの典型的なマルチスケールの課題であり多くの研究がなされてきている。 従来、鉄および鋼の照射欠陥は電子顕微鏡的にもオーステナイト系鋼と比較すると観祭が困難であり微視的情報が得にくいとされてきた。低温照射後の電気抵抗測定、内部摩擦側定など古くから行われてきたが、大きなブレークスルーとなったのは陽電子消滅寿命測定であった。すなわち、低温照射により導入された原子空孔の陽電子消滅寿命測定による観察が可能になったことである。これは原子空孔による陽電子の選択捕獲に強く依存しており、他の手段では不可能であったことを可能にした点、進歩の大きな原動力になった。実験のみならず陽電子寿命の計算方法も開発され、定量的な評価も可能になった。原子空孔のみならず転位、転位線上のジョグなどにも適用範囲が拡張されてきた。しかし、さらに大きな飛躍は陽電子の合金元素に対する感受性が知られるようになってからである。すなわち、陽電子に対する親和力の強い元素がマトリックス中で微小析出を形成すると原子空孔が存在しないにも関わらず陽電子を捕獲することが知られた。このことは量子ドットと言われている現象と等価な意味を持っている。これを可能にしたのが同時計測ドップラー測定(CDB測定:coincidence Doppler broadening)であり、内殻電子と陽電子の対消滅を詳細に測定できるようになったことが元素分析を可能にした原動力である。 鉄中の銅原子の微小析出物がこのケースに当てはまることが発見されて以来、照射脆化の主原因であるこの銅析出物形成に関する研究が飛躍的に進歩した。陽電子消滅測定法は鉄中の銅の微小析出物がある大きな以上に成長したときに検出可能になるが、一個の銅原子が析出を開始しこの臨界サイズに成長するまでの過程は他の方法、例えばアトムブローブなどによる観察が有効であることが次第に明らかになってきた。しかし、この方法に関してもその精度に関して種々の議論が交わされている。電子顕微鏡による観察も試みられているが、微小析出物に対しては観察はあまり容易ではない。さらに昔から行われてきた電気抵抗測定が有効であることが最近、再び認められてきた。 測定手段に関するこのような新展開と並行して鉄中の銅原子の移動機構に関する議論も新展開を見せている。すなわち、これまでは鉄中の銅原子はマトリックスに対してオーバーサイズであることから原子空孔を捕獲して移動すると考えられてきた。しかし、最近この他に格子間原子との相互作用を通して銅原子の移動が生じている可能性が指摘されている。これは低温照射後のCDB測定から指摘されており、その根拠は原子空孔の移動開始温度であるステージIII(鉄の楊合、220K)以下にもかかわらず、銅微小析出物形成に対応するシグナルが確認されているからである。電気抵抗の測定からも低温において銅析出物形成に対応すると考えられる顕著な回復ステージが観察されている。本研究で得られた最も顕著な成果はこの格子間原子に移動による銅原子の移動集積による析出物の形成であり、今後もその適用範囲を高温まで広げる検証などが要求されている。
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