研究概要 |
本研究では水素分子の活性化のみならず,被水素化分子として1,3-ブタジエンを取り上げ,ブタジエン水素化の活性および選択性に及ぼす表面構造の影響を検討した。金属および金属酸化物触媒をUHV処理し,1,3-ブタジエンの水素化反応を行った。UHV処理したPd触媒上で1,3-ブタジエンの水素化反応を行ったところ,水素化反応速度が大きく促進され,また反応初期においてUHV未処理のものに比べ1-ブテン選択性が高かった。水素化反応速度の促進は,水素分子活性化能の増大によると考えられる。反応初期における1-ブテン選択性の増大は,1,3-ブタジエンの水素化が1,4-付加で起こるのではなく,1,2-付加で優先的に進行した結果であると考え得る。1,4-付加では,ブタジエンの2つのC=C2重結合が表面と同時に相互作用する必要があり,ブタジエンの全原子が同一平面上にある構造から考えて平滑な表面と相互作用する必要がある。一方,1,2-付加では,1つの2重結合との相互作用でよいので凹凸に富んだ表面構造でも十分反応できると考えられる。このためUHV処理によって凹凸に富んだPd表面では,1,2-付加反応が高速に進行したと思われる。このように表面構造によって被水素化分子の吸着状態を制御し水素化の選択性を制御する可能性が見いだされた。 酸化物触媒として水素化能を有するZnOを用いてブタジエン水素化および水素-重水素交換反応を行い,UHV処理の水素分子活性化能,ブタジエン水素化の活性および選択性に対する影響を調べた。ZnOをUHV処理し水素-重水素交換反応を行ったところ金属触媒と同じく著しい交換活性の増大がみられた。1,3-ブタジエンの水素化反応では,活性は著しく増大するものの1-ブテンの選択性は処理の有無によらず高く,変化が明確に観測されなかった。反応の進行に伴い,ブテンの異性化反応による2-ブテン類が生成した。これはZnOの酸生によるもので1,4-付加が進行したとは考え難い。ZnO触媒の場合は元々1,2-付加が優先的に進行するものと思われる。吸着水素分子の昇温脱離実験よりUHV処理したZnO触媒上にはより低温で水素分子を解離し活性化するサイトが生成していることがわかった。また,吸着ブタジエン昇温脱離実験からUHV処理処理によって強く吸着したブタジエンの量が増大したことがわかった。水素分子活性の増大には水素分子活性化だけでなく,ブタジエンの活性化も関与していることが示唆された。
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