研究概要 |
動物細胞や昆虫細胞の培養による有用タンパク質の高生産プロセスを構築するために最も重要な技術課題は,培養の無血清化である.本研究では,培養の無血清化にともなう細胞のプロテオームの変化を解析することにより,無血清化に関与するタンパク質の同定と発現メカニズムの解明を行い,無血清化のプロセスを迅速化,効率化することを最終的な目標として,基礎的なデータの収集を行った.まず,有用物質生産のための遺伝子組換えの宿主細胞として広く用いられている動物細胞であるCHO細胞や昆虫細胞Sf9の低コストの無血清培養技術を開発するために,細胞増殖や組換えタンパク質生産を促進する効果を有するリン脂質であるホスファチジン酸の供給方法や血清無添加の基礎培地における昆虫細胞-バキュロウイルス系による組換えタンパク質生産などについて検討を行った.また,CHO細胞については,細胞を継代する際に使用する培地の血清濃度を徐々に低下させることによって血清添加培地を無血清培地に代替していく馴化法により,無血清培地中で生育可能な細胞を取得した.得られた血清非依存性細胞の増殖速度や組換えタンパク質生産速度を測定し,血清添加培地を用いて継代している細胞のそれらとほぼ同等であることを確認した.次に,無血清培地への馴化にともないCHO細胞のプロテオームがどのように変化したのかを調べるために,血清非依存性細胞および血清添加培地を用いて継代している細胞の細胞内タンパク質を2次元電気泳動により解析した.その結果,計約700種類の細胞内タンパク質が検出され,培養の無血清化にともない発現量が5倍に増加または1/5に減少したタンパク質がそれぞれ数種類ずつ存在することがわかった.
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