研究概要 |
2年間の本研究でえられた主な研究成果は以下の通りである。 (1)「[2,3]-Witing転位による不斉転写のメカニズム解明」に関しては、キラルなカルボアニオン末端を光学活性有機スズ化合物から発生させた一連の実験を行い、不斉転写が動的速度論的光学分割機構で進行することを支持する結果をえた。 (2)「[1,4]-Wittig転位の不斉転写能の評価」は本研究において最も力を入れたテーマである。まず、アリルボルニルエーテル(endo体とexo体)のカルボアニオン転位では、めずらしい[1,4]-Wittig転位(エノラート種を生成する)が50%前後の比率で、非立体特異的に進行することを見い出した。一方、アリルcis-カルベニルエーテルやアリル-trans-ピペリチルエーテリのカルボアニオン転位では、低温でも[1,4]-転位が40〜85%の比率で、ほぼ完壁に立体特異的(立体保持)で進行することを明らかにした。これらの結果から、[1,2]-Wittig転位と競争する[1,4]-転位はラジカル開裂-再結合機構で進行するのに対して、[2,3]-Wittig転位と競争する[1,4]-転位(比較的で起こる)は協奏(pericyclic)機構で進行することが明らかとなった。さらに、アリルシリルエーテル系のカルボアニオン転位のおける[1,4]-転位(retro-Brook転位)の可能性をも検討し、これまで知られていた[1,2]-retro-Brook転位は全く起こさず、[1,4]-retro-Brook転位のみを効率的に起こす3つの反応条件を見い出した。この手法は、新しい高立体選択的エノールシリルエーテルの合成法となるので、今後の発展が期待できる。 (3)「連続的シグマトロピー転位による不斉転写」については、アリルシクロペンテニルエーテルの系において連続的[2,3]-Wittig/[3,3]-siloxy-oxy-Cope転位([1,4]-Wittig転位と同じ生成物を与える)を検討したが、不斉転写能を検討するにはいたらなかった。
|