研究概要 |
感染特異的(PR)タンパク質の一つ,PR-3に分類されるキチナーゼは,細菌類細胞壁の主要な構成要素であるキチンを分解する酵素であり,生体防御機構の中での主要な役割を担っていると考えられている.本研究は,イネ植物体が構築している防御機構の中でのPR-3キチナーゼの役割・機能を解明するための基礎的な知見を得ようとするものであり,キチナーゼ遺伝子の品種間多型の検出,座乗位置の決定,PR-3キチナーゼ遺伝子の発現パターンの特定および組換えタンパク質による作用特性の解析を計画した. 塩基配列データベースの解析から,これまでに検出されているイネのPR-3キチナーゼ配列は,重複を除くと,24配列であることが判明した.検出されたPR-3キチナーゼ配列は,Cht1〜Cht12の12座のいずれかのアレルであることが明らかになり,発現が確認されている全てのイネPR-3キチナーゼ遺伝子の遺伝子座の同定を完了することができた.また,活性領域の構造に基づく新しい分類法によって,12座のイネPR-3キチナーゼが矛盾なく分類・整理することができた.さらに,活性のある組換えキチナーゼが得られるGST融合タンパク質発現系を確立し,この系を利用して得た組換え体キチナーゼタンパク質を利用することによって,3種のイネPR-3キチナーゼの酵素特性および抗菌特性を明らかした.一方,感染時,各発育時期および各組織におけるPR-3キチナーゼ遺伝子の発現特性の解析から,特徴的な発現様式がみいだされた.本研究によって,PR-3キチナーゼの生物学的な役割あるいは機能を解明するための基礎的知見を得ることができた.
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