研究概要 |
本研究は、窒素動態に関するself destructionの概念を基礎としながら、窒素の再転流速度、窒素固定活性、発育の3者の環境反応および遺伝的変異を解析し、青立ち発生の環境的・遺伝的要因を明らかにしようとした. 1.温度環境がダイズの窒素動態および青立ち発生に及ぼす影響 温度傾斜型チャンバー(TGC、W2m×L25m)内で,ダイズ6品種を,開花期以降の温度条件を外気温から外気温+約3℃の範囲で変化させて栽培した.高温条件は莢実期間の発達を阻害し,収量の低下をもたらした.しかし,本実験では青立ち発生と温度条件との関係は明瞭とは言えなかった. 2.土壌水分がダイズの青立ち発生に及ぼす影響 品種タチナガハをTGC内,雨除け圃場およびポット条件で栽培し,土壌水分処理を与える実験を行った.生殖成長期間の土壌乾燥は,窒素固定速度をもたらすとともに乾燥時期によっては莢実の生長を悪化させた.それらによる窒素収支の変化が青立ち発生と密接に関連することが認められた.一方,生殖成長期間の過湿は,地上部の乾物生産と窒素蓄積には影響しなかったが,湿潤区の方が莢先熟の発生が多くなった.導管液中のサイトカイニン(トランスゼアチンリボシド)量を測定したところ,湿潤区において子実肥大期間を通じて高く維持されていた.これらより,莢先熟発生に窒素の収支とともに地下部からのサイトカイニン供給が関与することが示唆された. 3.青立ち発生の遺伝的要因 Peking×タマホマレのRIL系統群を対象にした2年次の調査を解析し,青立ち発生に関連するいくつかの遺伝子座を見出した.その内の一つは2年次を通じて検出され,また伸育性を支配する主働遺伝子であるDt1の近傍に求められた.一方,Stressland×タチナガハのF3系統の形質調査から,青立ち発生程度の系統間差異が有限/無限伸育性と密接な関係にあることがわかった.青立ち発生の遺伝的要因は環境の影響を強く受けるものの伸育性と何らかの関係があることが示唆された.
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