研究概要 |
in vitroでS-RNaseを作用させた花粉管内の呼吸代謝系の酵素活性を測定した。フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)およびイソクエン酸脱水素酵素(ICDH)活性は殆ど影響されなかったが,インベルターゼ(INV)およびグルタルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GPD)活性は強く抑制された.このことから,PEPCやICDHは花粉粒内に既にタンパク質として存在し,INVやGPDは核酸を介して新たに合成される酵素であり,S-RNaseのターゲットが解糖系やINVなどのエネルギー代謝系酵素である可能性が示された. S_4-RNaseの抗体を作成し,花柱内におけるS-RNaseの分布を調べた結果,'幸水'のS_4-RNaseは上・中部で高く,'二十世紀'では中部で,また,'おさ二十世紀'ではその殆どが上部に局在していた.また,'おさ二十世紀'にS_4-RNaseが存在することを,免疫学的にも証明できた. S-RNase遺伝子発現は,品種によって大きく異なった.S_2-RNaseは'ゴールド二十世紀','青龍','おさ二十世紀'で低く,S_4-RNaseは'ゴールドニ十世紀','幸水','新水','おさ二十世紀'で低かった.但し,遺伝子発現量とS-RNase含量との明確な相関は認められなかった. 受粉後のS_2-RNase遺伝子発現量は,2日後にはどの受粉区でも受粉日の約20%にまで低下した.但し,1日目は他家受粉>無受粉>自家受粉の順となり,花粉管が花柱上部を伸長中は和合・不和合の違いによって発現調節されている可能性がある。 不和合性の弱い'晩三吉'では19.4%の自家結実率を得,強い'八幸'での自家結実率は0%であった.両者を交配したF1個体では,8個体のうちの2個体が僅かながら自家結実性を示したことから,'晩三吉'の自家結実性は遺伝する可能性が示された.このことより,本研究計画で挙げた"自家摘果性品種"の育成は可能と判断された.
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