研究概要 |
森林植生は遷移を経て極相で安定すると考えられていたが,最近では,攪乱による変化と更新を部分的に繰り返しており、攪乱の存在が生物の多様性の維持に重要であるとの見方にかわりつつある。長期調査されている水俣照葉樹林において台風が襲来し、根返り、幹折れが発生した。攪乱後10数年経過した現時点の状況を調査し、林床での稚樹個体群の更新と成長を上層の林冠破壊と関連して解析した。幹直径4.5cm以上の大径木の現存量は,調査plot1,plot2,plot3でそれぞれ220,320,330ton ha^<-1>であった。台風直前と比較するとそれぞれ55%,70%,85%に激減していた。台風以後の中径木および小径木(幹直径4.5cm未満)の幹直径成長率は、0.04 year^<-1>以上で、攪乱以前の0.02以下より増加し,ギャップ形成の効果と考えられる。根返りの位置と計上形状測定を行った。幹直径の小さい樹木の根返りマウンドはいずれも小さいが,大サイズの樹木のマウンドは大小様々であった。根返りのマウンド部分を、4つの微地形に区分しそれぞれに出現した植物種を比較した。マウンド部分には43種が出現した。微地形による分布種の違いは明らかではなく、攪乱後に埋土種子から発生するとされているカラスザンショウやアカメガシワなど先駆植物は、いずれも地上30cmにおける幹直径が0.5cm以下で、将来的にも低木層あるいはそれ以上の階層へは達しえないと思われる。根返り周辺に存在した前生稚樹の中には、ギャップ形成以後の成長が早く、成長率が0.2以上のものが存在し、林冠ギャップが形成された場合に林内に待機していた稚樹の内あるものの成長は促進される。台風による攪乱は、根返り部分そのものではなく、その周辺の中径木が将来的に林冠木となる可能性を与えるという側面で、森林の更新過程を加速する効果を及ぼすことが明らかになった。
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