研究概要 |
海産無脊椎動物グミ(Cucumaria echinata)体液中に存在するCa^<2+>依存性レクチンCEL-Iの糖認識機構を明らかにするために,CEL-I及びその糖との複合体のX線結晶構造解析を行った。その結果,糖結合部位には1個のCa^<2+>が結合しており,GalNAcなどの糖は,その3-OHと4-OHによってCa^<2+>との配位結合及びその他の糖結合部位アミノ酸残基(Gln101,Asp103,Glu109,Asn123)との水素結合を形成していることが明らかになった。また,GalNAcを特に強く認識するために,Arg115とGln70がGalNAcのアセトアミド基と水素結合やvan der Waals力によって相互作用していたことから,これらの残基をアラニンに置換した変異体を大腸菌で発現させ,その糖結合活性を検討した結果,Arg115のみの置換によって活性は約1/8程度にしか低下しなかったが,両残基を置換すると活性は1/100程度まで低下した。このことは両残基が水素結合とvan der Waals力によって協同的に結合に関与していることを示唆している。 同じくグミ体液中に存在する溶血性レクチンCEL-IIIのX線結晶構造解析を行った結果,CEL-IIIは,立体的に明瞭に区別できる3つのドメイン(ドメイン1,2,3)からなることが明らかになった。ドメイン1,2はリシンやアブリンのB-鎖と同様,3つの繰り返し領域からなるβ-trefoil構造をとり,両者合わせて7ヵ所のCa^<2+>結合部位と,1ヵ所のMg^<2+>結合部位が認められた。一方,ドメイン3はこれまでに類似の構造が見当たらない,βシートに富むドメインを形成しており,これが細胞膜内で会合し,イオン透過性のポアを形成することが示唆された。また,ドメイン3には逆平行に並んだ2つの両親媒性αヘリックスが存在しており,これがドメイン1,2の境界部分のくぼみにちょうど収まるように位置していた。この領域は,合成ペプチドの研究から,細胞膜と相互作用することにより抗菌活性を発現する領域でもあり,細胞膜との相互作用や自己会合に重要な領域であることが示唆された。
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