研究概要 |
【目的】オーラプテン(Aur)はクマリン系化合物で,特定の柑橘果皮に局在する。Aurの生理作用には,発ガン抑制や活性酸素の生成抑制が知られている。そこで,本研究ではAurの生理作用をより詳しく知るため,ラットやラット脾臓リンパ球を用い種々のパラメータに及ぼす影響について検討した。【方法および結果】初めに柑橘果皮乾燥物を用い,Aurを0.01%レベルで含む甘夏食,Aurをほとんど含まないポンカン食およびコントロール(セルロース)食をラットに4週間投与した。肝臓重量および血清グルコース濃度は甘夏およびポンカン群で有意な低下が見られた。一方,腎臓重量および血清TNF-α濃度は甘夏群で有意に上昇し,さらに甘夏果皮より調製したAur濃縮物を用い,Aurを0.04%レベルでラットに3週間投与した。体重増加量および食餌効率に影響はないものの,摂食量はAur群で高い傾向を示した。またAur群では,腎臓重量は増加する傾向にあり,一方白色脂肪組織重量は減少傾向にあった。血清トリグリセリド濃度はAurを与えたラットで有意に減少した。血清インスリン濃度はAur群で低い傾向にあったものの,グルコース濃度の変化は見られなかった。血清TNF-α濃度は,Aur群で高い傾向が見られた。ラット脾臓リンパ球を用いた細胞培養実験では,甘夏果皮より調製した高純度のAur標品を用い,Aurの添加濃度および培養時間による影響を検討した。IgA濃度は培養時間に関係なく,Aur濃度の増加に伴い減少傾向を示した。IL-4産生能は,24時間培養では微量のAur添加で有意に上昇したもののAurの濃度依存的に減少し,72時間培養ではAur添加による上昇は見られずAur濃度依存的に減少する傾向にあった。TNF-α濃度へのAur濃度による有意な影響は見られなかったが,培養時間に伴い上昇し,その差はAur添加において有意であった。IFN-Y濃度に及ぼすAur濃度の影響は一定ではなく,Aurを添加した場合には培養時間に伴い増加傾向を示した。【結論】動物実験においてAur摂取による血清TNF-α濃度の上昇が観察された。またAurの摂取は脂肪組織での脂肪酸代謝を促進する可能性があり,免疫調節機構について明確な影響は確認できなかった。一方,リンパ球の培養実験では,Aurが脾臓リンパ球のイムノグロブリンやサイトカイン産生能になんらかの影響を及ぼすことが確認された。しかし,免疫機能に及ぼす影響は促進的でも抑制的でもあったことから,明確な結論付けは難しい。Aur添加量によるサイトカインおよび免疫グロブリン産生能に違いが見られたことから,今後至適有効濃度を検討し明らかにすることが必要であろう。より多量の高純度な標品を調製し,実験動物における明確な効果を確認する必要がある。
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