研究概要 |
森林生態系を移動する溶存有機態炭素(DOC)のうち,土壌微生物に消費される溶存有機態炭素(BDOC)の測定には,バイオリアクター装置が有効である。本研究では装置の操作として,周辺温度は20℃以上を保ち,送水速度は0.25ml/min,試料のDOC濃度は10mg/Lに調整すべきと結論した。本装置でA_0層抽出水のBDOC%を測定したところ,スギ,ヒノキおよびアカマツ林では20〜30%,ミズナラ林では50%の高率であった。これは,ミズナラ林の窒素量の多さを反映していると考えられた。 スギ・ヒノキ高齢林小流域におけるDOC動態は,両林ともA_0層通過でDOCが激増し,表層土壌で激減した。本流域の渓流へのDOC流出量は少なく,これは主に微生物の無機化と陰イオン吸着容量の増加による消費と推察された。スギ,ヒノキ,アカマツ,ケヤキ,ミズナラ林で分解程度の異なるリターおよび鉱質土表層を用いた室内培養実験から,HA層と鉱質土表層では炭素無機化速度と水溶性有機態炭素(WSOC)濃度に正の相関性が認められた。また,上記の小流域における鉱質土壌の野外培養実験では窒素無機化量とWSOC消費量との間に正の相関性が認められた。これらの結果は,DOCおよびWSOCの微生物分解に対する重要性を示すものである。しかし,炭素無機化量とくらべDOCおよびWSOC量は100分の1程度と著しく少なく,易分解性炭素を調査する必要があるといえる。 数種の森林土壌で腐植を調査したところ,A_0層の分解が進むほどリグニンの割合が増加し,アルカリ不溶の腐植画分では炭素分の70%がリグニンであった。一方,落葉広葉樹林における落葉分解実験で,難分解性のリグニンでも重量減少にともない減少し,リグニンをさらに画分する必要性が示唆された。無機成分ではC/P比が高い落葉でPの不動化が著しく,森林における有機物分解はPの詳細な研究も不可欠といえる。
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