研究概要 |
わが国の森林は,旧薪炭林や人工林がそのはとんどを占め,人為の影響を受けていない森林は非常に限られたものとなってしまった.これまで薪炭林は長期にわたって短い周期で伐採が繰り返され,人工林では植生遷移を人為的に停滞させることによって用材が生産されてきた.そのために,林分構造が単純化し,天然林にみられる多様な更新段階からなる林分のモザイク構造が失われている. 本研究は,わが国冷温帯の代表的な森林における,林冠条件や管理方法の違いが植物種多様性に及ぼす影響を明らかにする.調査地は新潟県上川村および周辺の町村でおこなった.第1章では,旧薪炭林である落葉広葉樹林における潜在的な植物種多様性を明らかにした.第2章では,(1)スギ人工林施業,(2)スギ人工林に広葉樹を導入する針広混交林施業,(3)薪炭林が放棄された広葉樹二次林を対象に,林冠構成木の違いが林床の光環境と植物種多様性におよぼす影響を明らかにするとともに,それぞれの林冠条件に関係する植物種群を抽出した.そして,第3章では,林床植物種の保全に配慮したスギ人工林の森林管理について検討を行った.第4章では,広葉樹二次林に対して間伐強度(人工ギャップのサイズ)を変えて,間伐直後と一定年が経過した後で更新してくる広葉樹の消長を明らかにした. さらに,各章それぞれにおいて,林冠条件や管理方法の違いが生物多様性に及ぼす影響を明らかにするとともに,里山林全体の多様性を保全するための各森林タイプの管理方法についても検討した.
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