研究概要 |
本研究は,土砂災害環境の相違や変化(土砂災害環境の時間的変化)の原因を解明し,将来の土砂災害対策のあり方を議論・模索する上での基礎情報を提供することを目的として実施した。 多雨地域と非多雨地域内より不撹乱状態で採取した供試体に対して土質試験を実施した結果,両流域とも風化開始後の経過年数の増加とともに乾燥単位体積重量と土の粘着力は指数的に減少し,間隙率は指数的に増加する結果となった。 非多雨地域内の小斜面で人工降雨実験を行い,土層内部での水分挙動や土層断面からのマトリックス流出量などを計測した。そして,これらの結果を基に,樹木根系部(特に,腐朽根)周辺に集中して見られる雨水の流出特性について考察を加えた。その結果,樹木根系部周辺の流れは,マトリックス流がダルシー即に従うのに対して,マニング則に準拠した挙動を示すことが明らかになった。 さらに,崩壊の発生に関与する「土層厚の成長:素因」と「雨の降り易さ:誘因」の両者を勘案した崩壊に対する<免疫性評価モデル⇒崩壊発生危険度評価モデル>を構築し,同モデルを多雨地域(高知県)と非多雨地域(愛媛県)の両流域に対して適用した。その結果,両地域とも現在からの経過年数や降雨量の増加とともに安全率は減少傾向を示し,崩壊誘発雨量は多雨地域(上改田川流域)では646.0mm/day,非多雨地域(上宿野谷流域)では319.0mm/dayとなり,両者に300mm/day以上もの差が認められた。一方,斜面安定化指数は,多雨地域(上改田川流域)では365年,非多雨地域(上宿野谷流域)では413年となりこの差は50年程度と「崩壊しやすさ」すなわち土砂生産環境は両地域とも類似する結果となった。この崩壊誘発雨量の差が崩壊に対する免疫性を意味していることになるため,多雨地域では非多雨地域と比較して崩壊に対する免疫性が大きいことが明らかとなった。
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