研究概要 |
乾燥の過程で木材に生じる不均一な収縮が原因で,割れ,落ち込みなどの損傷の発生や,内部応力の残留が起こる。このため,乾燥による歩留の低下,切削後や使用過程での反り・狂いの発生を招く。本研究では,100℃以上での飽和および不飽和水蒸気下における木材の粘弾性挙動を詳しく調べ,得られた知見を有効に活用して,割れなどの損傷や内部残留応力の少ない乾燥条件を明らかにすることを目的とした。本研究において、収縮応力の測定は、乾燥が十分に進み、大きな割れが視認され、得られる応力が不正確となる付近、すなわち乾燥終期までおこなった。140℃で、0および20%RHでの乾燥終期の収縮応力は、100℃以下で乾燥した場合と同様の高い値となったが、20〜80%RHではそれらは相対湿度の増加とともに8から2kg/cm2まで順次減少した。160℃でも同様な傾向が認められたが、この場合には、乾燥終期収縮応力について収縮応力の高いグループ(40%RH以下で乾燥の場合)と、収縮応力の低いグループ(60%RH以下で乾燥の場合)の2者に分離した。この傾向は温度増加とともにさらに顕著となった。これらのことから、140℃,60%RH以上の条件での過熱水蒸気乾燥で収縮応力は低い値にとどまることがわかった。このような収縮応力の温度、湿度による変化は応力緩和から予測できること、収縮応力の大きな低下には応力緩和が効果的に作用していることがわかった。また、過熱水蒸気下で木材中に生成が推定されている凝集構造に木材セルロースが関係するか否か検討するため、セルロース系繊維の水蒸気処理を行った。ガラス棒に巻いた2種のセルロース系繊維(木綿糸、レーヨン糸)を190℃、20分間水蒸気処理し、試料に与えた変形が水蒸気処理により固定されるか否かを観察した。その結果、レーヨン糸に与えた変形は水蒸気処理により固定されたが、木綿糸の場合は固定されなかった。木綿糸と木材が同じセルロースIの構造を持つことや、木綿糸に関するX線回折の結果より、190℃、20分間程度の水蒸気処理では、セルロース部分での凝集構造の形成はほとんどなく、セルロースは変形固定にほとんど関与しないと考えられた。さらに、成分分析により乾燥過程で木材構成成分分子に生じる変化を明らかにすることをこころみた。このために、180℃で水蒸気処理および熱処理したスギ材について化学成分分析と力学測定を行い、木材に与えた圧縮変形が固定される機構について検討した。60分間の水蒸気処理により、ホロセルロース中のアルカリ可溶物量が著しく減少し、それと残存応力、回復度、降伏値、曲げ破壊強度の低下が対応した。水蒸気処理した試料について構成糖を定量した結果、木材構成成分のうちヘミセルロースが水蒸気処理過程で溶脱することが考えられ、それに伴う内部応力の開放や疎水性結合の生成が変形固定の原因と推定された。一方、720分間の熱処理により、処理時間とともにアルカリ可溶物量だけでなくαセルロースの熱減成が木材の内部応力の解放や変形復元力の低下をもたらし変形固定の原因となると考えられた。
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