研究概要 |
1.SS型ワムシの遺伝的特性 SS型のインドネシア株とタイ株,S型のスペイン株の3株を用いて、雌と雄の組合せを合計6通り作った。ワムシの交尾行動は、雌雄の接触→雄の旋回行動→交接の3段階で構成され、その後、受精に至る。ここでは、一連の交尾行動頻度を求めると共に、雌100個体と雄50個体を同一容器(水量5mL)に収容し、受精個体の出現状況をもとに受精率を求めた。その結果、SS型同士の組合せでは雌雄の接触後、交接に至る割合は5.0〜16.6%で.その後の受精率は7.7〜34.7%だった。一方、S型スペイン株とSS型2株の間では旋回までは観察されたが、交接と受精は観察されなかった。S型株と交接するSS型株の存在も報告されているので、S型ないしSS型とみなされるワムシ株内にもそれぞれ大きな遺伝的変異があると考えられた。 2.生殖特性と大量保存への応用 SS型ワムシを10および12℃下で14日間生かしたまま保存できることが分かった。保存期間終了時にワムシ培養水中へγアミノ酪酸50μg/mLを投与することにより、25℃移行後の個体群増殖が促進された。30-35℃の高温下で両性生殖が発現するので、個体群の急速な成長にともなう餌料不足と水質の悪化が起こりやすく、両性生殖が進行する前に培養が崩壊する例が多い。SS型ワムシをあらかじめ35℃で培養して両性生殖を十分発現させた後、25℃に水温低下させることにより、以後7日間、安定的に両性生殖を進行できた。11日間の培養実験(水量500mL)では水温低下処理によって対照より2.1倍高い効率で耐久卵を形成できた。500L水槽(水量400L)を用いた場合にも、同じ効率で耐久卵を量産でき、9日間の培養後、約2000-3000万の耐久卵が形成された。 3.SS型ワムシを用いたマハタ仔魚飼育 SS型ワムシの給餌密度を3,10,30個体/mlとし、飼育を行ったとき、3個体/mlの給餌量では日令6,7で摂餌数が少なくなる傾向が見られ、日令7の全長も他の給餌密度区より低くなった。しかし、日令8以降は他の給餌密度区との間に差は見られなくなった。よって、実験終了時の結果を見る限り3個体/mlのワムシ給餌密度でもマハタ仔魚の飼育は可能であることが分かった。今回の実験に用いたSS型ワムシインドネシア株の被甲長サイズ組成は80〜156μm(平均被甲長114μm)だったが、日令4のマハタ仔魚が摂餌していたワムシの披甲長組成は75〜138μm(平均114μm)であった。このことから、開口直後のマハタ仔魚は給餌した全てのワムシを摂餌することができたわけではなく、サイズの比較的大きなワムシは摂蝕不可能だったと判断された。
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