研究概要 |
ミズクラゲの大量発生が東京湾などの内湾域に産する仔稚魚を含む低次生産生物群集に対するインパクトを定量的に把握する目的から,(1)東京湾をフィールドとして先に開発したミズクラゲの音響探知・判別手法の一層の確立に向けた基礎研究を継続し,(2)ミズクラゲその他の生物の炭素・窒素の安定同位対比から食物関係を明らかにし,(3)クラゲを含む動物プランクトンの捕食速度に関する知見を集めた。得られた概要は以下のとおりである。 (1)ミズクラゲのバイオマスと反射強度との間に直線関係が存在し,回帰式が得られた。これに基づき東京湾におけるミズクラゲの連続的なバイオマス分布が得られ,本種の分布にはパッチ性が顕著に認められた。なお,ミズクラゲが音響学的に定量評価されたことは,過去に例がなく,本研究の最大の成果の一つである。 (2)炭素・窒素安定同位対比の測定結果より,ミズクラゲとアカクラゲには食物関係のあることが強く示唆された。アカクラゲは魚食性が強く魚類に一定の捕食圧をかけていることが予想される。またミズクラゲをも捕食するので興味深い。なお,本種には近年,増殖傾向が認められ注意を要する。 (3)ミズクラゲは魚卵を効率的に捕食できる。また,動物プランクトンを巡りミズクラゲならびにプランクトン食性魚類は競合関係にあるが一般にミズクラゲの捕食能が勝る。また,ミズクラゲが1立方メートル当たり1固体以上の生息密度があれば,同種ポピュレーション濾水量は1日当たり1立方メートルを超えるので,動物プランクトン群集をも大きく減少させているものと考えられる。 (4)東京湾の場合,動物プランクトンの中でも小型カイアシ類のOithona davisaeがもっとも優先し,これを巡り魚類とミズクラゲが競合しているものと考えられる。本種カイアシ類は植物プランクトンのなかでも優先する珪藻を摂食できないので,珪藻類は利用されないままに枯死しDOCとして水に回帰することでバクテリアの増殖を促す結果,微生物食物連鎖が卓越し魚類へは効率よくエネルギーが流れないような構造となっている。同湾はミズクラゲが大量に増殖するという構造になっているものと結論できよう。
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