研究概要 |
淡水産のサメ・エイ類を除く海産サメ類は典型的なタンパク質の変性剤である尿素を海水の高い浸透圧を防御するために0.2〜0.6Mの範囲で含んでいる。しかし,尿素を含有しているサメ類のタンパク質は尿素を含んでいない硬骨魚のタンパク質と同様に尿素存在下でさえ生理的機能を維持することができる。これはサメやエイ類が尿素に対して抵抗性を示す分子機構を有しているためであると考えられる。この研究の目的は淡水産エイ類のミオシン重鎖および軽鎖の一次構造を解析し,尿素を含有している海産サメ類と比較し,海産サメ類ミオシンの尿素抵抗性の分子機構を解明することである。 海産のドチザメ筋原線維のMg^<2+>-ATPase活性は生体内尿素濃度である0.3M附近で活性化を受け,尿素濃度の上昇とともに活性が低下した。これに対して,コイのそれは尿素が微量に存在するだけで失活が始まり,尿素の影響を大きく受けた。淡水エイはドチザメ程の尿素抵抗性を示さないものの,コイのように大きな失活も示さず中間的な傾向を示した。これは淡水エイが尿素抵抗性の研究に適した生物材料であることを示す。 淡水エイ骨格筋ミオシンのcDNAクローニングにより1933アミノ酸残基よりなる全一次構造が決定された。本報告はそのうち1788残基までにつきドチザメ・ミオシンの構造と比較した。ミオシン重鎖S1領域の必須軽鎖結合領域内にある,N末端側から785〜793残基では,両サメ類のみが硬骨魚類に比べ強い親水性を示し,逆に同領域内の797〜799残基では,両サメ類のみが強い疎水性を示した。また,S1領域のATPおよびアクチン結合部位近傍の685〜693残基では,淡水エイがドチザメと硬骨魚類の中間のハイドロパシーを示す傾向にあった。これらの領域はATPase活性ドメインに近く,尿素抵抗性との関連性が示唆された。ここで得られた結果は海産サメ類の尿素抵抗性の分子機構の一端を解明するものである。
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