研究概要 |
1.地域通貨の概査 既存研究成果,地域通貨事務局が開設しているホームページの検索および実査等から,国内の地域通貨の取り組みとして141団体が確認できた。だが,実際は200を超える取り組みがあるものと推測される。これらの地域通貨について価値尺度を基準にして分類すると,時間が45%,法定通貨(円)が22%,時間と法定通貨の併用が21%,その他が11%であった。また,媒体は紙券・チップが46%,通帳が21%とこの2種類で過半を占めている。 2.事例研究 地域通貨で農産物を取引している団体代表と当該農家に対して聞き取り調査を行った。対象は,ピーナッツ(千葉),ゆ〜ら(京都),おうみ(滋賀),神戸たべもの通貨(兵庫)などである。この結果,地域通貨は農産物流通との適合性は高いものの,(1)消費者による援農(農作業の手伝い)がなく交換メニューが少ない場合には,農家に地域通貨が滞留しやすいこと,(2)商品価格の全額を地域通貨で支払えないため,消費者側が地域通貨を使用しづらい等の短所があることが分かった。 3.地域通貨と農産物流通に関する理論的・実証的研究 地域通貨を利用した農産物取引の場合,コミュニティの構成員を信頼していることが前提であり,トレイサビリティとは無縁である。また,地域を限定した地域通貨は,財とサービスの地域内循環を活性化させ,市場では評価されない価値を再評価できる機能をもっており,地産地消の目的に合致することが分かった。ただし,地域通貨が個別農業経営に及ぼす影響は限定的であり,コミュニティ構成員間の親睦と交流を図ることや地域活性化方策の象徴として取り組んでいる事例が多かった。 上記のような調査結果から,地域通貨を利用した農産物流通は今後急速に拡大するとは思われないが,地産地消や地域活性化の運動方策の一つとしてこれからも取り組まれるものと考えられる。
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