研究概要 |
本研究では,ダム等の治水施設の効率的運用のために,豪雨時の流出および雨量の実用的な実時間予測法を開発することを目的として,非線形時系列解析手法を用いた水文量の実時間予測法についてその運用法および予測精度の検討を行った。まず,岡山県北部の黒木ダム流域における豪雨時のダム流入量実時間予測に局所線形近似法を適用し,その予測精度をNearest Neighbor法と比較した。その結果,Nearest Neighbor法では参照する過去のデータの最大流量以上の予測ができないのに対し,局所線形近似法では精度よく予測できることが分かった。また,従来よく用いられるタンクモデルにカルマンフィルターを併用した実時間予測法と比較した結果,同程度の予測精度が得られることが分かった。さらに,別の非線形時系列解析法として,ニューラルネットワーク型のアルゴリズムであるSOLOネットワークアルゴリズムを洪水実時間予測へ適用し,その予測精度を検討した。その結果,降雨および流量のデータから構成される特徴ベクトルを用いて予測した場合は,ネットワークの同定期間における精度は高かったが,検証期間における予測精度が大幅に悪化する問題点が見られた。降雨と流量のデータから得られる主成分得点を用いて特徴ベクトルを構成し予測を行うと,検証期間における流量の予測精度は改善され,局所線形近似法とほぼ同程度の精度が得られた。次に,洪水の実時間予測を行う上で重要な問題の一つと考えられる降雨の発生および雨量の実時間予測にNearest Neighbor法を適用し検討した。岡山における1〜3時間先の雨量予測を,岡山およびその周辺の123箇所のAMeDAS雨量観測点における時間雨量データに基づいて行った結果,降雨発生の予測精度はよかったが,雨量は大幅に過小推定される傾向があり,実用上問題であることが分かった。
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