研究概要 |
熱帯・亜熱帯地域の草地における高位生産型放牧システムの開発と窒素動態を解明するため,我が国南西諸島をモデル地域として,肉用牛を対象に調査した。1)暖地型イネ科牧草のジャイアントスターグラス(Cynodon nlemfuensis Vanderyst,以下Gs)について,適正な窒素施肥量を明らかにすると共に,冬季補完草種として寒地型イネ科牧草のイタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam,以下Ir)を追播し,追播に伴う効果と,Ir追播草地の窒素施肥量について併せて検討した.その結果,夏季の採草地での利用に限定した場合,Gs草地の窒素施肥量は1.0kgN/aが望ましく,放牧地での利用の場合は0.5kgN/aの施肥量が乾物収量,栄養価,栄養収量ならびに窒素吸収率の面で効果的であることが明らかとなり,冬季においては生産量が低下することからGs草地の効率的な窒素施肥量は0.5kgN/aと考えられ,Ir追播草地おいては乾物収量や栄養収量の両面からその効果を最大限に高める窒素施肥鼻は0.5kgN/aが望ましいと考えられた.2)弱放牧(4.9頭/ha)と強放牧(6.6頭/ha)がGS放牧草地における^<15>N標識窒素を用いたトレーサー試験による施肥窒素由来の窒素の動態を調査した。その結果,本地域におけるGs放牧草地における地上部(収穫部)の^<15>N回収率は,冬季で低く,夏季で高い傾向にあった.年間の部位別の^<15>N回収量は,強放牧では採食部位(地上部)で、弱放牧では土壌中で最も高かった.植物-土壌系全体でみると^<15>Nの回収率は強放牧(42%)より弱放牧(65%)で高かった.言い換えれば,放牧地圏外への窒素の放出については強放牧と弱放牧でそれぞれ58%と35%になることが推察された.3)Gsとパンゴラグラスそれぞれ基幹草種とする放牧草地を造成し,両放牧草地で試験Iと同水準の追肥を行い,牧養力と施肥窒素の利用効率を比較し,Gsの牧養力は6.7頭/ha/年,パンゴラグラスの場合は5.9頭/ha/年であった。また,^<15>N回収率からみた採取部(摂取部)の施肥窒素の利用効率は,冬季で11-15%,4-5月で34-36%,夏季では約30%となり,^<15>N回収量はGsで40%,パンゴラグラスは38%と差異は認められなかった。4)本地域のこれまでの慣行的牧養力(3頭/ha/年)を,効率的な窒素動態を考慮した放牧システムによって約2倍(6.7頭)に高めることが可能であることが実証された。
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