研究概要 |
大気汚染物質の一つである浮遊粒子状物質(Suspended particulate matter,以下SPM)は肺への吸入・沈着により健康に悪影響を及ぼすことが示唆されている。様々な大気汚染物質に恒常的に曝露されている肺組織における生体防御機構を解明することを目的とし、金属結合蛋白メタロチオネインを含む防御システムについて解析(病理、分析化学)を実施した。 14年度は、1)病理所見:ヒトで報告されているのと同様の形態学的変化として肺胞壁の限局的肥厚(線維化)、気腫(肺胞壁の拡張)、気管支腺の活性化、気管支軟骨の石灰化およびSPMの蓄積、肺胞上皮細胞、気管支腺上皮細胞および気管支上皮細胞でのメタロチオネイン陽性像、および2)分析化学的所見:肺および肺門リンパ節における金属の定性・定量的分析結果(Fe, Al, Mn, Zn, Cr, Mg)を報告した。 15年度は、イヌの呼吸器系における防御機構の加齢に伴う変動をクララ細胞に焦点を当て解析した。終末細気管支から呼吸細気管支の領域は,様々な気道内異物の影響を受けやすいことが知られている。クララ細胞はその領域に存在する無線毛気管支上皮細胞であり,薬毒物を代謝する酸化酵素(Cytochrome P450)を多く有することなどから,肺の防御機構に深く関与している。肺の防御機構におけるクララ細胞の役割を明らかにするために,(1)浮遊粒子状物質(SPM)の沈着部位,(2)クララ細胞の形態学的および機能的変化について検索した。その結果、以下の所見が確認された。 1.SPMの沈着部位 SPMは細気管支粘膜上皮下のマクロファージ,細気管支の間質,一部の細気管支上皮細胞およびクララ細胞の細胞質内,肺胞マクロファージ内に認められた。クララ細胞の存在する近位肺胞領域に集中したSPMの沈着が認められた。 2.クララ細胞の形態学的および機能的変化 成齢犬では若齢犬と比較して,過形成所見(増数や豊富な細胞質を有する)および機能性蛋白(Cu-Zn SOD)の陽性所見の増強を示す傾向が認められた。また,老齢犬においては,過形成およびCu-Zn SOD陽性所見の減弱が認められた。
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