食中毒細菌の一種であるカンピロバクタージェジュニ(Campylobacter jejuni)は菌体表層に粘着性の物質を放出し、菌体同士が接着してバイオフィルムと呼ばれる集合体を形成するが、その形成機構や機能については明らかにされていない。平成14年度の研究において、本菌のバイオフィルムの形成過程を形態学的に観察し、鞭毛がフィルム形成に重要な役割を果たしていること、菌体表層にはルテニウムレッドによって検出される多糖体が存在する事が明らかにされた。これらの観察結果を踏まえ、平成15年度の研究ではC.jejuniのバイオフィルム形成に関与する遺伝子群を検索するため、鞭毛関連遺伝子、多糖体合成関連遺伝子をゲノム情報から検索し、それらの遺伝子を破壊したノックアウトミュータントを作製してバイオフィルム形成能を調べた。その結果、鞭毛が欠損したflaA、flaB、flhA遺伝子の変異株ではバイオフィルム形成能を失ったが、走化性遺伝子(cheY)の変異株では野生株と同様の形成能を示した。さらに、鞭毛の形成は野生株と同様に認められるが、運動性を欠失したmotA変異株を作製したところ、鞭毛欠損株と同様にバイオフィルム形成能が消失していた。一方、多糖合成関連遺伝子として、莢膜多糖の発現に関与するkpsM遺伝子の変異株を作製したところ、バイオフィルム形成能には影響しなかった。これらの結果から、バイオフィルムの形成には鞭毛による運動性が重要な役割を果たしている事が明らかにされた。次に、本菌の生存性におけるバイオフィルムの役割を明らかにするため、野生株とバイオフィルム形成能を失った変異株を用いて、好気条件下で4℃に保存した際の生存性を比較した。その結果、バイオフィルム形成能を失った変異株と野生株では、菌の生存性に大きな差は認められなかった。
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