研究概要 |
ストレスを生体に負荷すると、摂食が増強、或いは、抑制される。しかし、その脳機構については不明であった。本研究の目的は情動ストレスによる摂食障害の動物モデルを構築し、カテコラミンニューロンとペプチドニューロンの役割を明かにすることであった。本研究は、まず固形飼料を用いて、摂食量を経時的に自動的に長期間測定する機器を試作した。この機器を用いることにより、暗期の摂食量を自動的に計測することが可能となった。この機器を用い、ストレスによる摂食に対する効果を検討した。軽い痛み刺激を加えると、加える前日に比べ、有意に摂食量が亢進した。これに対し、心理的ストレスの1つである拘束ストレスは摂食を抑制した。次に、ストレスの神経回路を明らかにする目的で、痛み刺激あるいは条件恐怖刺激のときに活性化される神経細胞の同定とその投射先の同定をFos蛋白質と神経伝達物質あるいはその合成酵素に対する免疫組織化学的検索、さらに、逆行性トレーサーを組み合わせた方法で検討した。その結果、摂食を亢進するストレス刺激である痛み刺激は摂食亢進機能のあるオレキシンニューロンを活性化させた(Zhu et al.,2002)。これに対し、情動ストレスである条件恐怖刺激は、視床下部に投射する延髄弧束路核のA2ノルアドレナリンニューロン、特に、摂食抑制作用がある神経ペプチドであるPrRPを含有するニューロンを活性化させた(Zhu & Onaka 2002、Zhu & Onaka,2003)。さらに内因性のPrRPを阻害しておくと、自由摂食下の、あるいは、絶食後の摂食量が増加した。拘束ストレス負荷時による摂食抑制も減弱した。以上のデータは、侵害刺激時にはオレキシンニューロンが活性化され摂食が亢進し、情動ストレス負荷時には、PrRPを含有するノルアドレナリンニューロンが賦活化され、摂食が抑制されるという可能性を示唆している。
|