研究概要 |
MITFはbasic helix-loop-helix leucine-zipper motif(bHLHzip)を持つ転写因子であり、N-末端の異なるアイソフォーム(MITF-M,MITF-A,MITF-H,MITF-D等)から構成される。特にMITF-Mはメラノサイト分化に必須である。 私達はメラノサイト特異的遺伝子であるドーパクロムトートメラーゼ(DCT)やMITF-M遺伝子がWntシグナルによって活性化される事を示した。さらにMITF-MがbHLHzipを介してWntシグナル伝達系の転写因子LEF1と複合体を形成し、DCTやMITF-M自身の転写を活性化することを明らかにした。興味深いことにMITF-MはDNA結合を必要とせず、LEF1と複合体を形成しコアクチベーターとして機能した。このコアクチベーター機能はMITF-A,MITF-H,MITF-Dにおいても認められた。MITF-M以外のアイソフォームはメラノサイトのみならず各種細胞に発現している。よってMITFは多くの細胞において、その認識配列CANNTGの有無に関わらずWntシグナルの標的遺伝子の多くに関与すると考えられた。またMITF遺伝子疾患であるワーデンブルグ症候群2型の発症はMITF-Mの量不足(haploinsufficiency)と考えられており、MITF-M遺伝子の自己活性化機構はMITF-Mの発現を維持するのに非常に重要である。 さらにWntシグナルによるDCT遺伝子の転写活性化にはDCT遺伝子プロモーター上のcAMP応答類似配列TGAGGTCAが関与していたが、当配列に結合する転写因子はCREBではなく核内レセプターである可能性が示唆された。当該核内レセプターはDCT遺伝子プロモーター上の複数のTGAGGTCA類似配列を認識する。 一方、DCT遺伝子は網膜色素上皮にも特異的に発現しており、メラノサイトと同様にWntシグナルとの関わりを解析した。その過程で、ホメオドメイシタンパクであるOTX2が網膜色素上皮におけるDCT遺伝子の転写を調節することが明らかとなった。しかもOTX2がMITFと相互作用した。 またMITFが種々の細胞でWntシグナルに関わる可能性があるので、MITFが発現する候補となる幾つかの組織を検討し、MITFがマウス精巣において生殖細胞に限局して発現することが判明した。
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