研究概要 |
当該研究課題では,テロメア長およびテロメアの伸長機構に関連するテロメラーゼ分子に注目して,(1)肝炎・肝硬変患者における肝細胞残存分裂回数の分子診断法の開発,ならびに,(2)テロメラーゼ誘導による肝細胞寿命の延長に関する基礎的検討を試みた. 研究期間内に以下の成果を達成した. (1)生体内分子間相互作用解析装置(BIACORE 3000,BIACORE AB, Uppsala, Sweden)を用いてテロメラーゼ活性を定量的に解析するtelomeric repeat elongation (TRE) assayを開発した.TRE assayはPCR法によらない優れたテロメラーゼ活性の評価法であることが明らかとなった. (2)エストロゲンのテロメラーゼ誘導による,肝細胞分裂寿命の延長に関する基礎的検討をヒト肝培養細胞株(Hc-cells, hNheps, WRL)を用いて行った.テロメラーゼ活性は2-4倍に上昇した.テロメラーゼ活性の上昇は,hTRET hTERT (human telomerase reverse transcriptase)の発現増強によるものであった.さらにエストロゲンの長期添加実験では,添加群でテロメア長の短縮が有意に抑制され,senescence-associated β-galactosidase陽性細胞比率も減少していた. (3)四塩化炭素肝硬変モデルラットを作製し,外因性エストロゲン投与によるテロメア長の短縮抑制効果を検討した.エストロゲン投与群で有意にテロメア長短縮が抑制されていた(文献22). 以上より,肝細胞の分裂寿命は外因性のエストロゲン投与により延長させることが可能であり,新たな慢性肝疾患患者の治療戦略の可能性が示唆された.
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