研究概要 |
大腸腺癌の粘膜下組織浸潤部間質には,組織学的に好酸性の間質細胞が束状を呈して認められる(好酸性紡錘形細胞束).これらの少なくとも一部は粘膜筋板との連続が認められること,平滑筋形質マーカーである細胞骨格タンパクの発現(免疫組織化学染色による)が連続的に変化していること(好酸性紡錘形細胞束ではα-smooth muscle actinの発現は比較的保たれているものの,desminやhigh molecular weight caldesmonの発現の低下・消失をみる)から,好酸性紡錘形細胞束の少なくとも一部は粘膜筋板の平滑筋細胞がmyofibroblastic cellに形質変化したものであることが示唆された.さらに,粘膜筋板から連続して平滑筋形質が失われている像が形態的に確認できた部位において,平滑筋形質が失われつつある領域の一部もしくは最も平滑筋形質が失われた領域において,好酸性紡錘形細胞束を形成する間質細胞にtype I procollagen mRNAの存在を確認することができた(in situ hybridization法による).このことから,myofibroblastic cellに形質変化した粘膜筋板の平滑筋細胞が細胞外基質を産生して大腸癌粘膜下組織浸潤部の間質の形成・改変に関与しているものと考えられた.さらに,好酸性紡錘形細胞束部の細胞核に,免疫組織化学的にEts-1 oncoproteinの発現が確認された.血管内皮細胞での発現と区別するためにCD34との二重免疫染色を試みた結果,血管内皮細胞以外の間質細胞の核にもEts-1の発現が認められた.Ets-1はangiogenesisを含めた間質の改変に関与する転写因子とされており,好酸性紡錘形細胞束部の細胞核でのその発現の点からも,それらの細胞が大腸癌間質の形成・改変に関与していることが示唆された.大腸癌粘膜下組織浸潤癌の深達度診断に際しては,浸潤部の組織改変を考慮する必要がある.
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