研究概要 |
目的:HIV-EP2は乳癌においてLOH頻度の高い染色体領域6q23-q24に位置する転写因子をコードする遺伝子である。免疫反応や細胞増殖調節に関与すると想定されているが、発癌における異常についての報告はない。今回、ヒト乳癌におけるHIV-EP2の遺伝子発現異常を検索した。 方法:乳癌33症例のパラフィンおよび凍結切片組織より、マイクロディセクション法により腫瘍および周辺正常乳腺組織の核酸を抽出した。real-time RT-PCR法にて、mRNA量を測定した。5'-RACE法およびmultiplexRT-PCR法により5'非翻訳領域exon、およびその発現パターンの解析を行った。遺伝子コード領域のSSCPによる変異スクリーン後direct sequence法にて変異同定をした。combined bisulfite-restriction(COBRA)法によりプロモーター領域のメチル化を検索した。 成績:正常乳腺部との比較が可能な18例中、8例(44%)では10倍〜25倍腫瘍部mRNAの減弱、3例(17%)では5〜10倍の減弱をみた。全体として腫瘍部(33例)では正常部(18例)に比べて有意にmRNAが減弱していた(normalized value 4.49 vs.17.68;p=0.0001)。しかし、6q,16q,17p,18qLOHと,mRNA減弱には相関はなかった。SSCP法にて正常部にもみられる塩基配列のgermline polymorphismを複数検出したが、腫瘍部での体細胞変異は検出されなかった。5'非翻訳領域に複数のalternative splicing exonsを認めたが、multiplex PCRでは組織や腫瘍での特異的なパターンは認められず、正常乳腺および他組織でも類似のsplicing patternを認めた。4つのalternative 1^<st> exonsの存在するCpG islandにつき、メチル化の有無を検索したところ、CpG islandの5'側にわずかのメチル化を腫瘍部のみならず、正常乳腺、正常組織、リンパ球にも認めた。すなわち、メチル化はHIV-EP2の腫瘍特異的発現抑制に関与しないと考えられた。 結論:HIV-EP2遺伝子発現の減弱が乳癌では高頻度であり、乳癌発癌に関与する重要な遺伝子の1つである可能性が示唆された。しかし、同遺伝子の発現異常は遺伝子変異やメチル化によるのはなく、その発現調節は他の因子との相互作用を介しておこることが想定された。
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