研究概要 |
[目的]わが国における肺癌急増のリスク因子としてとくに経気道性発癌物質の関与を証明するため,経気道性発癌物質のうちでもとくに定量性のある2種類の因子(喫煙とアスベスト)に着目し,肺癌例の喫煙歴,肺内アスベスト(AB)量,p53などの癌関連遺伝子変化を検討した。 [方法](1)1990年代の原発性肺腺癌切除例のうち非喫煙者46例を対象とし,肺内AB量の定量,LOH解析,p53変異を検索した。(2)1990年代の原発性肺腺癌切除例のうちAB定量とp53遺伝子変異の検索を行った137例で,喫煙の有無ならびにAB曝露量とLOHの有無,p53変異を検討した。(3)ABの定量方法としては、低温灰化法と偏光光顕を用いて肺内AB小体数を測定した。また,全染色体腕のLOH頻度はFAL値(LOHを示す部位の数をinformativeな部位の数で除したもの)で表わし,p53変異と変異codonを検索した。喫煙歴は喫煙指数(SI)で表した。 [結果](1)肺内AB小体量によって全体を3群(AB0(n=21),AB=0;AB軽m0<AB<1000(n=14);AB高,ABが1000以上(n=11))に分けたところ,各群のLOH頻度は高/中/低分化=6/11/4,6/8/0,4/7/0であった。FAL値は,AB0が0.17,AB軽0.07,AB高0.13で喫煙者平均0.22より低かった。p53変異は検索した44例中12例(27%)にみられ,その頻度に関してはAB高群(45%)はAB0群(16%)より有意に高かった(p=0.006)。また,喫煙者に特徴的な変異はみられなかったが,AB軽群でG→T transversionが認められた。(2)第1群:AB=0,SI=0,第2群:AB>0,SI=0,第3群:AB=0,SI>0,第4群:AB>0,SI>0に分けた検討では,(1)LOH頻度は,第4群でのみFAL=0.25と高かった。(2)p53変異は,第1から第4群まで21,36,41,50%と上昇し,第4群で最も高かった。喫煙関連のp53変異(codon273などの特定のコドンやtransversion)は喫煙群で高頻度であったが,非喫煙群でも見られた。AB小体のみ陽性群では特徴的変異はなかった。第1群に低分化腺癌が4例見られた。 [結論](1)喫煙とAB曝露との共同効果がLOH頻度,p53変異から示された。(2)AB曝露は,LOH頻度を増加させず,また,喫煙のような特徴的変異を起こさないことから,AB曝露は細胞回転を刺激することにより喫煙によって変異の生じた細胞を癌へと導くものと推定される。(3)吸入性発がん因子と無関係の低分化腺癌が存在する可能性がある。(4)非喫煙者にみられた喫煙に特徴的な変異は、間接喫煙によるものと推定される。
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