研究概要 |
昨年度の実績に基づき,本年度は以下の成果を得た. 1)胃型(化生なし),胃腸混合型,腸型のタイプ別に分別収集し保存された胃粘膜非腫瘍部幽門腺腺管約50例を対象に,1腺管からのDNA採取と複数のマイクロサテライトマーカーを用いたrepilication error (RER)の解析を試みた.PCRの至適条件の検討を重ねたが,1腺管からのDNAを用いた解析は困難であった.その最大の理由として,粘膜採取〜腺管分離〜染色の過程で60分以上有しており,DNAの劣化により解析に耐えうるだけの良質かつ豊富なDNAの収集が困難であったためと考えられた. 2)進行胃癌症例70例のホルマリン固定パラフィン切片を対象に,細胞分化に基づく分類とhMLH1遺伝子の発現につき免疫組織化学的に検討した.hMLH1遺伝子の発現は17例で明らかに低下を認めた.17例は,胃型4例,胃腸混合型2例,腸型6例,分類不能型5例であり,腫瘍の細胞分化と遺伝子不安定性との間には有意な関連性は見られなかった. 3)上記70例の癌周囲粘膜に見られる腸上皮化生と正常粘膜についても,hMLH1遺伝子の発現を免疫組織化学的に検討した.化生粘膜では,症例により胃腸混合型化生の一部に発現低下を認めたものの,概ね発現は保たれていた.正常粘膜では発現低下は全く認めなかった. 4)3)の結果を得たことより,マイクロダイセクション法を用いての癌周辺部化生粘膜,ならびに正常粘膜におけるRER解析はあまり意味がないのではないかと考え,施行しなかった. 5)進行胃癌約20例の癌部についてのRER解析では,すでに報告したとおり,形質発現とMSI,hMLH1遺伝子の発現との間には明らかな関連性は見出されなかった. 6)以上の結果より,今回検索した限りでは,遺伝子不安定性と腸上皮化生腺管における細胞分化異常との間,あるいは胃癌の細胞分化との間には有意な関連性を証明することはできなかった.今後はより良好なDNAを得るために,化生の有無と程度を迅速かつ確実に分類できる方法の確立が必要と思われる.その結果腺管単位で,細胞分化の状態と密接にリンクした遺伝子不安定性の解析が可能になると考えられる.
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