研究概要 |
Hermansky-Pudlak症候群、略してHP症候群は常染色体劣性遺伝を呈し、眼皮色素欠損症、血小板機能異常、セロイド蓄積症を三主徴とし、成人後に高率に肺線維症を発症する疾患である。HP症候群と相同な遺伝子epに異常を有するPale earはヒト同様の症状を呈するが、2年間の自然経過中ではあきらかな肺線維症を認めない。今回、われわれはこのHPSモデルマウスPale earを用いて、シリカによる肺の線維化を誘導し、その線維化能、リソゾーム機能、発現遺伝子の同定を施行しHPS/ep遺伝子の肺線維化過程の解明をめざした。Pale earマウスの気道を露出しシリカを気管内投与し、1,2,3日後および1,4,8週後に肺を摘出した。結果は、Pale ear肺は早期で線維化が抑制され後期に高度のリンパ球の浸潤が気管支、血管周囲に認められた。Procollagen mRNAsの定量的解析を施行すると、Procollagen type I mRNAの発現はPale ear肺で4週、8週において有意に発現の亢進を認めた。Gene microarraysの検討では、Pale earはコントロールと比し早期におけるInterleukin-1β,MIP-1β,2やTNF-αの発現が約1/2に減少し、後期ではTransforming growth factor-βの発現が約2倍に亢進していた。また、胎児線維芽細胞をTGF-βで刺激した実験では、あきらかにPale ear線維芽細胞が投与量や時間によりProcollagen I mRNAの発現が亢進していることがわかった。以上より、Pale earに対するシリカの経気道投与による線維化能は、投与初期における炎症反応の抑制と後期における線維化能の亢進、特に不溶性コラーゲンであるI型コラーゲンの産生が亢進していることが示された。これらは、Microarrayの解析やRT-PCRの解析により、Pale earの肺胞マクロファージの炎症性サイトカインやケモカインの発現に量的、時期的な異常が認められ、これにより炎症・線維化反応の異常を来した可能性が示唆された。これらの結果は、HPS-1/e p蛋白の機能との関連性を直接説明するものではないが、リソゾーム蛋白である可能性を考えると、その炎症性免疫との関連性において重要な役割を示す可能性が示された。今回のPale earの解析により、初期の炎症性刺激は抑制され後期の線維化能が亢進することはヒトにおけるHP症候群の肺線維症の発症を考えるときわめて興味深いと考えられた。
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