研究概要 |
Ogura & Berg(米国、スタンフォード大学)により分与されたTN2(luxS::cat)の染色体1.7kbを鋳型にしてPCR法により増幅した1,783bpのDNA断片で,臨床分離株H.pyloriTK1402をNatural transformationで形質転換することによりluxS変異株HP06株を作製した。Vibrio herveyiBB170株(AI-1センサー遺伝子変異株でAI-2のみに応答)を用いたバイオアッセイ法によりH.Pylori 1402株のluxSが大腸菌内で発現しLuxSとして機能することを明らかにした。また,TK1402のluxS遺伝子および発現に必要な部分を含む824bpの断片をPCR法により増幅し,遺伝子の配列を決定した。その結果luxSのサイズは465bpであり,アミノ酸155残基をコードしていた。得られた配列をゲノムの配列が公開されているH.pylori26695株およびJ99株のHP105およびjhp97と比較したところ,塩基配列ではそれぞれ96.1%および96.2%,アミノ酸では98.0%および96.8%の相同性を示した。 H.pylori luxS変異株HP06株の細菌学的性状を解析した。HP06株のAI-2活性は野生株TK1402の100分の1以下であった。pH3での耐酸性は尿素存在下において両株間で同等であり、胃上皮細胞への付着性も両株間で差異を認めなかった。しかし、0.3%寒天培地上でHP06株はTK1402株と比較して運動性が低下していた。TK1402株またはHP06株10^9CFUをスナネズミに2目間連日投与した。感染後経時的に屠殺し、胃内菌数の測定、病理組織学的観察を行った。HP06株投与後1週、1ヶ月、3ヶ月にRT-PCR法により、本菌が検出されたスナネズミは1匹(4匹中)、1匹(5匹中)および2匹(5匹中)であった。これに対し、TK1402株接種スナネズミでは1週、1ヶ月、3ヶ月後ともに全例H.pyloriが検出された。病理組織学的検査では、TK1402株感染1ヶ月後のスナネズミ胃粘膜固有層に強い炎症性細胞浸潤が認められたが、HP06株を感染させた群ではこのような変化は認められなかった。これらの結果からQSは運動性に関わる遺伝子の発現に関与し、初感染に重要なファクターとなっている可能性が示された。
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