研究概要 |
我々は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)を産生する細胞を新生仔マウスに投与することにより、HTLV-1がマウスに感染することを証明してきた。しかし、ウイルスの感染や増殖過程、感染細胞との相互作用などはまだ良く分かっていない。最近私たちはセルフリーのウイルスの活性を保って濃縮することに成功し、効率の良い感染系を樹立した。この感染系を用いて、従来感染効率が極めて悪いとされていたマウス細胞にも実際には効率良くHTLV-1ウイルスが侵入することを明らかにし論文発表した(Jpn J Cancer Res 93:760-766,2002)。 一方、ヒトのHTLV-1キャリアーでは、HTLV-1のウイルス量がどのような機構により決まっているのかが不明である。我々の樹立したマウスの感染系を用いて、HTLV-1感染後のウイルス量を調べたところ遺伝的背景によっても大きく異なる結果を見出し、論文発表した(Biochem Biophys Res Commun 309:161-165,2003)。 また、ATLの発症メカニズムに関しては、ウイルス遺伝子のTaxタンパク質の作用が調べられてきた。一方、HTLV-1のATLにおける挿入変異の可能性を調べるため、我々は、HTLV-1が組み込まれたゲノム上の位置を感度良く検出するためのInverse PCR法を開発し、23例のATL患者に関する25箇所のHTLV-1挿入部位をゲノム上で調べたところ、52%が、遺伝子内に挿入されていた。組みこまれた遺伝子の中には、増殖関連遺伝子と考えられるものがあることが分かった。このようにATL細胞においては、遺伝子に挿入されている確率が高いことはinsertional mutagenesisの考え方に矛盾しない。この結果は、論文として発表した(Cancer Sci 95;306-310,2004)。
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